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コミュニティの崩壊とコスプレ・ブーム

コスプレ・ブームが盛り上がる一方だ。その背景には、コミュニティの崩壊による祭りや伝統行事の衰退がある。人々は、新しいコミュニティとガス抜きの場を求めはじめたようだ。
 最近、コスプレがちょっとしたブームになっているという。コスプレとは、コスチューム・プレーの略で、映画やアニメの主人公の扮装をしたり、メイドや看護婦や巡査などの制服を着たりする仮装のことだ。コスプレを趣味にしている人は、コスプレーヤーと呼ばれている。

一人でコスプレをしても楽しくないので、お互いの扮装を見せ合うためのイベントがしばしば開催される。正月やクリスマスやバレンタインデーやハロウウィンといった記念日はもちろん、土日祝日には、必ずといっていいほど大都市ではコスプレ・イベントが開催されている。今や、コスプレ・イベント情報誌や、情報サイトまで出ているという。

東京ドームシティ、豊島園、よみうりランドといった大規模遊園地でもあたりまえのとうにコスプレイベントが開催されるようになった。こうした場所には、2000人から3000人の男女が集まるそうだ。もっとも全員がコスプレをしているわけではない。見物したり、写真をとることを目的にやってくる人もいる。ギャラリーが集まれば、コスプレーヤー達は、自ずとコスプレに力が入る。また、コスプレコンテストを開催しているところもある。

最近、人気のメイド・カフェも、コスプレブームの一つだ。メイド・カフェ・ブームのきっかけは、人気ゲームのキャラクターの一人にメイドがいたことだといわれている。そのゲーム会社がイベントを開催した時、会場に仮設の喫茶店を設け、ウェイトレスに、ゲームのキャラクターのメイドの服装をするとお客が多く入った。それが発端となって、秋葉原にメイド服の女性が給仕する喫茶店が登場し、爆発的なブームになった。今では、全国にメイド・カフェが誕生した。人気が高いメイド・カフェがアルバイトを募集すると何百人もの応募者が殺到するという。

最近は、美容室、マッサージ、ハウスクリーニング、カラオケ屋、食料品店にまでメイド服の女性が登場するようになった。それによって売上が急増するところもあった。

コスプレーヤーが増えるとともに、コスプレ衣装を販売する店も増えてきた。ネット上にも、何百というコスプレ・ショップが生まれた。また、すでにコスプレ衣装店の細かい専門店化も始まったようだ。

メイド服専門店、アニメキャラ専門店といったジャンル別の専門店や、1万円以下で衣装が揃う廉価品専門店、5万円くらいする高級品を揃えた上にオーダーまでできる高級専門店といった具合だ。また、テーマパークなどの制服を一手に引き受ける大手企業もでてきた。さらに、キャラクターが持っている武器やバッグなど小物専門店、カツラ専門店、コスプレーヤー専門の名刺屋まであった。名刺屋は、コスプレをしている写真をいれて、コスネームというコスプレをしている時の名前で製作するのがセールスポイントだ。多くの人は、コスプレ用の名刺を普通の名刺屋でつくるのは恥ずかしいと考えているため、こうした店に頼むのかもしれない。

コスプレ・ショップで手軽に衣装が買えるようになると、コスプレが容易になり、イベント参加者は、一挙に増えていったのかもしれない。また、同時に、パチンコホールやレストランといった多様なサービス業や学校行事などでも、コスプレ衣装を気軽に使えるようになった。

誰でも、たまには変わった格好をして騒いでみたいと思うものだ。かつては、そうした機会が沢山あった。たとえば、お祭りの時には、ハッピを着たり、顔を白塗りにしたり、鬼の格好をしたりといった具合に、地域によって様々な扮装をした。学校では、運動会や学祭では、応援合戦や仮装行列や劇などで奇抜な格好を競いあったものだ。考えてみれば、結婚式、成人式など行事に応じて正装するのも、一種のコスプレかもしれない。

ところが、コミュニティが崩れるとともに、伝統行事は次第に廃れていった。また、カジュアル化が進むとともに、全員がきちんと盛装するといった場がなくなってきた。今では、ノーネクタイで入れないレストランなどは、ほとんどなくなったし、披露宴の服装もラフになる一方だ。

逆に、日常生活では、奇抜な服装の人が増えた。ロックを楽しんでいる若者は、ステージ衣装のような服装で歩いているし、黒人文化を真似たギャルは、顔を黒くして、ドレッドヘアという細かい三つ編みにし、スカルプチャーというつけ爪をしている。

仮装と日常の境目があいまいになってきたわけだ。そこで、きちんとした仮装の場がほしくなったのかもしれない。

最近は、日本でもハロウウィン・パーティーが盛んになってきた。派手な化粧を施したビジュアル系をはじめとした一部のアーティストのコンサートでは、客は、黒ずくめとか、レースだらけの服といったほとんど同じようなスタイルでやってくる。また、ディスコやクラブなどで開催される洒落たパーティーでは、ドレス・コードが指定されるようになってきた。ドレス・コードとは、「タキシード。ロングドレス」「赤い色のものを身につける」「天使のイメージ」といったちょっとした服装指定のことだ。これも一種の仮装だろう。アパレル業界や宝飾業界などでは、記者発表会ですらドレス・コードがあることが珍しくないという。ヨサコイ祭りは全国に広がり出演者は増加の一途をたどっている。これも、一種のコスプレ大会かもしれない。

非日常的な衣装を販売する側から見れば、非日常的な服を着られる場所が増えれば売上があがるわけだ。バブルの前までは、百貨店では、非日常的な衣料品を販売するためのイベントを積極的に開催していた。たとえばタキシード売り場では、タキシードを購入した客を対象に、船上パーティーやリゾート地での野外パーティーなど、タキシードがふさわしいパーティーをしばしば開いていた。毎年、華やかなパーティーがあるから、タキシードを買う理由ができるわけだ。また、和服の販売を伸ばすためには、高級料亭での食事会や格式ばったお茶会などを開催していた。

バブルが始まるともに、わざわざ百貨店がイベントを主催しなくても、レストランやホテルやイベント会社などが、そうしたパーティーを開催するようになったので、わざわざ百貨店がイベントに力を入れる必要はなくなった。現在では、わざわざ正装するパーティーは定着しつつある。

同様に、コスプレ業界も、最初はコスプレショップが小さな会場を借りたり、やコミケ(自主制作の漫画を販売するイベント)の片隅にコスプレコーナーが設けられるといった小規模なところからスタートしていた。それが、現在では、イベント会社が大規模に遊園地で定期的に開催しても採算が合うくらいに成長してきたわけだ。

いうまでもなく、伝統的なコミュニティが崩壊し、伝統的な行事が失わるとともに、企業は企業社会をつくり、運動会や旅行や様々な宴会など非日常の場を用意した。

最近では、それが失われたため、個人で参加できるコミュニティが必要になってきたわけだ。ブログなどは、井戸端会議や村の助け合いの代替だろう。ネット上で輸血が足りないと呼びかければ、病院のシステムがダウンするくらい沢山の提供者が現れるという。 

現在のコスプレ・ブームは、祭りや行事の代わりだといえよう。ただし、伝統的な祭りや行事は、コミュニティーに根ざした宿命的な集まりであるのに対して、コスプレ・イベントは好きな時だけ参加できる。気軽な代わりに、決して深い帰属意識を味わうことはできない。だから、心が満足できずに毎週のように通うのかもしれない。こうしてみると、コスプレ・ブームは、まだまだ盛り上がりそうだ。

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