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変化の時代とフレキシブルな組織

IT化、グローバル化、多様化などの進展によって、社会の変化は飛躍的に早くなった。そうした変化に対応するため、企業は様々な変革に着手しはじめた。

いつの時代でも、企業は、市場の変化にフレキシブルに対応できる体制を整えておくことが必要だ。カンバン方式、多能工、定期的なローテーションなどは、その代表だろう。

ところが、現在は、IT化やグローバル化のほかに趣味の多様化、ファッション化傾向が目立ち始め、市場の変化は非常に早くなってきたので、これまでのやり方では、対応が出来なくなり、それにともなって、新しいやり方が続々と登場してきた。

たとえば、マザース上場企業のイーディーコントライブという会社は、CDやDVDを始めとした記録メディアを違法コピーから守るための技術によって成長してきた。この会社は、全ての事業をプロジェクトにしている。

同社のプロジェクトは、社員の提案から始まる。新しい事業について提案がある場合は、社員は、事業内容、売上予測、経費、最初に必要な予算などについての計画をたて、役員会に提案する。それが了承されれば、立案者はプロジェクトリーダーに任命される仕組みだ。

任命されたプロジェクトリーダーは、まず、社内でスタッフ集めに着手し、スタッフの給与体制、勤務体制まで決める権限がある。有利な条件を提示して、他のプロジェクトに所属しているスタッフを引き抜いてもいいし、兼任で仕事を頼んでもいい。

もっとも、専任スタッフを揃えれば、人件費がかさむので、プロジェクトの立上げ当初は、人件費を抑制するために、兼任スタッフを集めるリーダーが多数派だという。

プロジェクトを掛け持ちすれば、それぞれのプロジェクトから給料がもらえる。3ー4のプロジェクトを掛け持ちしている人も少なくないそうだ。

大半のプロジェクトは、この会社が得意とする情報保護やコピー防止に関するものだが、中には、沖縄文化の紹介、商品輸入といった、本業には、まるで関係がない分野のものもあるそうだ。

プロジェクトが軌道に乗ったところで、他の人にリーダーを譲り、再び、他のプロジェクトに挑戦するといった一種の立上げ屋のようなスタッフもいるそうだ。

残念ながら、プロジェクトの業績が思うように伸びなければ解散になる。実は、この解散の容易さが、プロジェクト制度の最大のメリットだそうだ。うまくいったプロジェクトの場合に、大きな効果を発揮する。

たとえば、プロジェクトが仮に、大成功を遂げれば、普通の企業は、事業部のような固定した組織にする。ところが、どんなに優れた事業でも、いずれは時代に合わなくなるものだ。ところが、固定された組織になれば、そう簡単には潰せなくなり、次第に他の部門の収益を食いつぶすようになる。それに対して、ずっとプロジェクトのままであれば、途中で売上が落ちてくれば、規則にのっとってすぐに解散できる。つまり、時代に合わなくなった事業は、どんどん淘汰されていくわけだ。

プロジェクトが解散した場合、そこに所属するスタッフは、他のプロジェクトに移籍したり、新たにプロジェクトを立ち上げなければならない。いろんなプロジェクトから所望された人や、次にプロジェクトを立ち上げる力がある起業家タイプには、敗者復活のチャンスが沢山あるわけだ。しかし、他のプロジェクトから声がかからなかったり、新しいプロジェクトを立ち上げる企画力がないといった人は、退職してほかの会社に転職するしかない。やりがいがあると同時に、非常に厳しい制度でもあるわけだ。

一方、日本の浄水場の濾過砂の8割のシェアを握る日本原料株式会社では、社員の視野を広げ、考える癖をつけさせれば、変化に対応できると考えている。

同社では、まず、新入社員から利用できる「私の提案制度」を用意している。提案のレベルによって100円から50万円までの報奨金が出る。この制度で提案に慣れてきたら、今度は、プロジェクトを立案する「21世紀プロジェクト制度」に挑戦するという。同社は独占企業であったため、30年間ほとんど新しいことはしなかった。そこで、工場のオートメーション化、研究所の別法人化、濾過砂を洗浄する機械の開発など、プロジェクトによって改革を進めていった。さらに、上を目指したい人には、定員1名任期1年の役員「ブルーバード制度(青年取締役)」にも応募できる。

役員権限が必要な大きな案件を役員会に提出し、認められれば、ブルーバードになれる。任命されれば、その間、給料は大幅にあがり、役員会にも出席できる。さらに社長がマンツーマンで1年間、みっちり指導する。終わった後は、飛躍的に能力がアップするという。

この会社では、このような制度によって、長い間10億円前後で低迷していた売上が平成16年には25億円に増加し、さらに21年には100億円まで伸ばそうとしている。社員の能力を最大限に伸ばそうとする同社のやり方は、日本企業になじみやすそうだ。この会社が成功すれば、この方式は、一挙に広がるかもしれない。

一方、企業に人材を送り込む学校にも変化がでてきた。最も進んでいるのは、webデザインやプログラミングなどIT業界に的を絞ったデジタルハリウッドというスクールだろう。このスクールは、日立やIBMなどから出資を受けて関係を深めることによって、常に、必要とされる最新技術をキャッチできる仕組をつくった。授業内容は、それをもとに組み立てられている。

スクールの授業は、一つの技術を半年でモノにできる短期コースが中心だ。それは、会社を辞めて習いに来る人が多いので、失業手当が出る期間に合わせたそうだ。

このスクールは株式会社制度をとっている。IT業界では、必要な知識は、刻一刻と変わっていく。だから、事前にカリキュラムの提出が必要な学校法人の資格を取れば、フレキシブルな教育ができなくなるというのが、その理由だという。同社は、千代田区の特区制度を利用して、大学、大学院までつくったが、いずれも株式会社方式だ。

グループ会社には、制作会社や人材派遣会社もあり、生徒達は、スクールに通う傍ら、OJTも体験できる。講師には、主として、IT業界で実際に働いている人たちがあたっているので、授業を受けながら現場の雰囲気も教えてもらえる。講師にとっても、社会経験を積んでいる生徒と話すことは勉強になるそうだ。

同スクールの歴史は、すでに10年にのぼり、卒業生は3万人に達したという。すぐに働ける生徒の実力の評価は高く、毎年600社くらいの募集が来るという。

同社を見れば、学校にも、社会環境の変化をキャッチする仕組みをつくることが必要になってきたことがよく分かる。

このように、変化に対応するために、それぞれの企業が、様々な努力をしている。すでに、多くの企業は、社員の一部を派遣社員や契約社員など流動的なスタッフに切り替えた。また、組織の一部もアウトソーシングによって他社に切り替えた。

そして、いよいよ、組織、正社員をどうするかという段階に入ってきたようだ。一回辞めた会社に、また戻れるという出入り自由な制度を設ける企業も増えてきた。

流動化が進んだ社会は、一見、厳しいようだが、考え方によっては、たとえば、3年フリーターをやって、再び学校に入って最先端の技術を身につけて就職するといった自由な働き方もできるようになるはずだ。企業、教育機関がフレキシブルになれば、案外、人間らしい社会がやってくるのかもしれない。

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