その他の連載・論文

SRI 時々刻々
簡易保険資金掲載文
その他

簡保年金資金掲載文(小泉三保子との共同執筆)

過去に向かう消費ブーム

子供のころ、あるいは若いころに欲しかった商品を、十分な所得を持つ大人になってから買う人が増えてきた。各世代の過去に注目したヒット商品が続々と生まれている。

何処の国でも、経済が低迷すると、未来に夢が持てなくなり、過去を懐かしむようになるものだ。

日本も、バブルが崩壊してから、ずっとリバイバルブームが続いている。昭和40年代のキリンラガービールの味が復活したり、「明日がある」「亜麻色の乙女」などが、ヒットしたり、70年代の化粧が流行しているのはその例だ。つい最近は、「フェアレディZ」の生産が再開され、40歳以上の男性の間で人気を博している。それは、1969年に誕生した初代「フェアレディZ」を意識したデザインだ。

子供のころに好きだった玩具を買う人も増えてきた。例えば、20年前、30年前の人気テレビ番組の「怪獣ブースカ」「ウルトラマン」「ガンダム」などの当時のキャラクター商品は、驚くほどの高値で取引されている。300円くらいのソフトビニールの人形に1万円以上の値が付くことは珍しくない。中古の玩具を扱う小売店は、雨後の竹の子のように増えている。また、インターネット・オークションでの、個人取引も盛況だ。

企業は、リバイバルした昔の人気キャラクターの新製品を続々と作っている。「ルパン3世」「ウルトラマン」「仮面ライダー」をはじめ、10~30年くらい前の人気キャラクターグッズが、次々に発売された。例えば、「ウルトラマン」のキャラクターグッズは、若い男性によく売れる。子供連れの場合は、子供よりも父親が積極的に選んでいるケースが多いという。

最近目立ってきたのは「大人買い」だ。「大人買い」の典型は、グリコのガムのような、おまけ目当ての菓子をケース単位で買っていくことだ。1つだけ買うと、欲しいおまけは当たらないので、ケース単位で買うのである。また、百円とか二百円を入れてハンドルを回せば、見本の中のどの玩具が出てくるか分からない自動販売機「ガチャポン」で、筋な玩具が出てくるまで、買い続ける人もいる。単に、子供用の玩具や菓子やジュースなどをまとめ買いすることも「大人買い」と呼ばれている。

いずれのケースも、子供のころにやってみたかったことを、実現しているといえよう。好きな玩具を手にすれば、子供のころの夢の感覚を思い出す。大人買いをすれば、「次こそ欲しいものを当てよう」と期待した子供の時のワクワク感がよみがえってくる。このような行為によって、未来に夢を持てないウサを晴らしているといえよう。

大人が買うとすれば、子供相手では、とても売れないような高級な玩具も売れる可能性が出てくる。例えば、バンダイでは、現在30歳前後の団塊ジュニアが、小学生の時に好きだったテレビアニメ「ガンダム」の高級ラジコンを発売した。定価が10万円であるにもかかわらず、生産が追いつかないほどのヒットを遂げたという。

タカラでは、「チョロQ」というミニカーの高級版「デジQ」を作った。「チョロQ」は、1980年に発売して以来、累計で1億2千600万台も売れた大ヒット商品で、スカイライン、カローラ、フェラーリといった実際の車をマンガ風にデフォルメしたデザインで、後輪がやけに大きいことが特徴だ。子供用「チョロQ」は、後輪を逆回しするとゼンマイが巻かれて走る仕組みで、現在の価格は350円だ。それに対して、大人用の「デジQ」は、赤外線でコントロールするリモコン版で、価格は4.980円だが、30歳代を中心に70 万台も売れたという。玩具業界では、10 万台以上売れればヒット商品といわれるので、それは、大ヒット商品になったわけだ。

同社では、大人を対象とした玩具を開発しても、売れるという確信を持った。そこで、今年、本物の自動車を生産するチョロQモーターズという会社を設立した。もっとも、同社では、自動車を製造するノウハウは持っていないので、寿司の配達などに使われている「コムス」という1人乗りの電気自動車を改良した。

玩具の「チョロQ」のイメージに近づけるために、屋根も、荷物を置く場所も取り払って極めて不便なクルマを作った。それを、今年の8月から生産台数を限定して予約販売を始めた。電気自動車の市場はまだ小さく、一体、どのくらい売れるか見当が付かなかったからだ。昨年の一人乗り電気自動車の市場は、わずか300 台だった。しかし、限定生産にすれば、希少性が出るので、1種のプレミアム商品として売れる可能性も期待できる。

まず、8月に、限定99 台、1台129 万円で、発売記念モデルの予約販売をした。すると約2週間で900 件以上の申込みがあったという。言い換えれば、1種の玩具にしたことで、わずか2週間で3年分の需要を創造した事になる。

来年は、1台199 万円で、300 台限定生産の電気自動車を発売するという。1回目に販売した電気自動車とは色が違うそうだ。3回目は、違うデザインで数百台といった具合に、一つのモデルは、最大数999 台以内に抑える限定生産を続けていくそうだ。同社では、今後、家電の分野にも進出する予定で、先日、家電メーカーを買収した。来年は、20 種ほどの家電製品を売り出すそうだ。

そういえば、最近は、パチンコ台でも、昔の人気番組やアイドルを用いた機種が増えている。「ピンクレディ」「西部警察」「明日のジョー」「巨人の星」といった具合だ。大当たりすれば、テーマソングやヒット曲が流れる仕組みになっている。とても、大人を対象にしたギャンブルとは思えない雰囲気になってきた。

現在は、経済が低迷している上に、技術革新が止まり、私たちの生活が一変するような魅力的な耐久消費財が出なくなった。さしあたり、欲しいものが無いことが、個人消費の低迷の一因でもあり、それが一層、景気の低迷を招くという悪循環に陥っている

企業は、現在は需要が無いので、過去を掘り起こすことで、需要を喚起して失速を免れようとしているわけだ。それが、玩具から、自動車、家電製品、ギャンブルにまで広がりつつある。それは、子供が、高級ソーセージよりも、ラベルにマンガが付いた魚肉ソーセ-ジを欲しがるのに似ている。技術や利便性といった本質ではなく、「懐かしさ」に需要がひっぱられる時代は、まだまだ続きそうだ。

ページのトップへ