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人口構造の変化と顧客の囲い込み

若年層の人口が減少しているので、どの企業も固定客を掴むための努力を始めた。新しい情報技術を利用して、昔ながらの店と顧客のコミュニケーションを再現しようとする企業も現れてきた。

日本の人口構造が大きく変化している。少子化に伴い、新製品や新サービスに飛びつく若年層の人口は減少し、保守的な消費スタイルの高齢者の比率が増えている。まもなく、巨大な人口を擁する団塊の世代が、リタイアメントの年齢に入り、また、団塊ジュニアが、結婚、出産の年齢に入った。つまり、現在は、数年おきに市場規模が変化する不安定な時代であり、どの業界でも市場が少しずつ縮小しているのである。

それにともなって、サービス産業や消費財産業の企業は、新規の顧客を次々に開拓するのではなく、長期的に愛用してくれる固定客の確保、いわゆる顧客の囲い込みに熱心になってきた。

顧客の囲い込みに、いち早く手をつけたのは、クレジットカード会社だろう。数年前から、入会金や手数料を無料にするサービス競争が始まり、ついで、流通サービス業や航空会社と提携したポイント・サービスが広がった。クレジットカードには、もともと買い物した額に応じて景品がもらえるポイント・サービスがあった。それに、百貨店やスーパーマーケットの買い物ポイントが加わり、客は、クレジットカード会社と小売店と両方からポイントがもらえるようになったわけだ。

たとえば、A百貨店で買い物すれば、買い物額の3パーセントとか5パーセントの額を、次回以降の買い物の時に、現金同様に使える。流通サービス業、輸送業、旅行代理店なども、顧客の囲い込みを図りたいと考えていたため、積極的にクレジットカード会社との提携をはかっていった。

ところが、客にとって困ったことに、ダブルでポイントがたまるのは、ひとつのサービスだけだ。たとえば、A百貨店のポイントを貯める時には、A百貨店発行のビザカードを、Bスーパーのポイントを貯めたければ、Bスーパー発行のマスターカードをといった具合に、いくつものカードを持たざるをえない。

それは、客にとっては、きわめて不便であり、また、いくつものカードを保有していれば、クレジットカード本体のポイントが、ちっとも溜まらない。また、カード会社にとってみると、顧客管理に擁する手間ばかりが増え、あまり儲からない。カードを発行しているサービス業は、「これ以上、カードはいらない」と客から断られるようになった。

そこで、最近は、クレジットカードと連動していない店独自のポイントカードを発行する店が急増してきた。これなら、たとえカードを紛失しても、失うのはポイントだけだから苦にならない。飲食店から大手スーパーや百貨店まで、店独自のポイントカードが主流になりつつある。

一方、クレジットカード会社は、ポイントの有効期限を延ばすことによって、長期的にカードを持つメリットが強まるようにした。たとえば、これまで1年間で切れていた有効期限を3年とか5年に伸ばすといった具合だ。セゾンカードは、ついに、カードを保有している限り、ポイントが消えない永久不滅カードにした。ポイントが消えなければ、年間の買い物額が少ない人でも、買い物でポイントを意識するようになるだろう。

ところで、世の中には、ポイントカードなど発行していなくても、いつも大勢の固定客でにぎわっている店が沢山ある。頑固店主のラーメン屋、ユニークなマスターがいる喫茶店、腕のいい技術者がいる理髪店、センスが良い販売員がいるブティックなどは、その典型だ。つまり、深い専門知識や一種のコミュニティやスタッフの人間的な魅力は、ポイントよりも、はるかに客をひきつけるわけだ。

もちろん、小さな店では、こうしたことが、比較的簡単にできるが、大勢の客が集まり、また、スタッフの異動も頻繁な大手の企業では、こうしたサービスは難しいと考えられていた。スタッフが顧客とマンツーマンで親しく接するのは、高額所得を持つ特別顧客に限られていた。

ところで、ネットの技術の発達とともに、一挙に大勢の客とコミュニケーションをはかったり、顧客同士のコミュニティをつくることが可能になってきた。

その典型が、2~3年くらい前から、じわじわと広がり初めてきたソーシャル・ネットワーク・サービス(S・N・S)の利用だ。

SNSは、ソーシャル・ネットワーク・サービスの略で、一言でいえば、会員制のブログ(web上の日記)だ。友達同士で、一種のグループをつくり、お互いに日記を公開しあい、お互いが日記についての感想文を書き込む。グループは、Aさんの友達グループ、Bさんの友達グループといった具合に、会員の数だけ友達グループがある。AさんとBさんが友達なら、Aさんの友達グループとBさんの友達グループのメンバーは、友達の友達だ。いずれは、日記での書き込みを通じて、友達の友達とも、友達になりましょうといういった「社交」を目的に掲げている。

毎年、相撲の番付形式でヒット商品のランキングを発表している日経流通新聞の「2005年上期ヒット商品番付」では、SNS最大手のmixiが、『スープカレー』や『ハッピーベガ』や『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などと並んで、東前頭にランクインしていた。

このシステムを、客の囲い込みに利用すれば、固定客の流出を食い止められそうだ。

たとえば、ネット専門のある会員制旅行代理店は、今月から会員を対象にSNSのサービスをはじめた。

客、スタッフ、海外スタッフなどは、それぞれ、自由に日記をかけるし、また、人の日記にもコメントを書き込める。日記を読めば、誰が、どの国に詳しいとか、音楽に詳しいといったことが一目瞭然になる。たとえば、ロンドンのバレエについての日記を書いたAさんという客がいれば、同様にロンドンやバレエに関して興味がある人たちが、Aさんの日記に、自分の体験談やロンドンやバレエに対する思いなどをコメントとして書きこむだろう。そうなれば、Aさんの日記は、ロンドンやバレエに関する一種のコミュニティの場になるわけだ。同様の趣味を持つスタッフや海外スタッフも、そのコミュニティに参加すれば、話は、ますます弾むだろう。

旅行に行っていない時期でも、毎日、こんな会話をSNS上で交わしていれば、会員もスタッフも、友人同士になるだろう。ここで知り合った仲間とオフ会をかねて旅行に行ったり、手配は、すでに友人になったスタッフに頼もうとするはずだ。そうなれば、多少の価格差があっても、固定客をとられる心配はなくなるだろう。

百貨店、航空会社、酒販店、ダイエット食品のメーカーをはじめ、SNSを取り入れはじめた企業が、続々と増えてきた。

考えてみれば、このやり方は、地域コミュニティがあった時代、買い物しなくても、近所の商店の主人と挨拶したり、無駄話をしていたのとよく似ている。

品揃えや専門知識も大切だが、もっと大切なのは、人間的なつきあいだ。それを、コンピュータが、可能にしつつある。中小小売店にとっては、厳しい時代がやってくるかもしれない。

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