簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

ライフスタイルの多様化と時間型サービス

人々の生活時間がバラバラに、また忙しくなるとともに、深夜営業のスーパー、１０分間理髪店等、様々な時間型サービスが出てきた。

それはレジャー施設にまで広がってきた。

大都市では、ライフスタイルの多様化によって、人々の生きる時間帯は、ますますバラバラになってきた。たとえば、ホワイトカラーは、これまで通り勤務時間が何時から何時までと決まっている伝統的な働き方もあれば、出勤時間を自分で調整できるフレックスタイム制度を取り入れている企業もある。最近では勤務時間ではなく、仕事量が決まっている裁量労働制度を取り入れるところも増えてきた。裁量労働制度を取り入れている企業の中には、毎日の出勤すら義務づけていないケースもある。

人々の働く時間がバラバラになった時に、一番困るのは日常の買い物だ。多くの人は、もっぱらコンビニに頼っていたが、最近は、深夜まで営業するスーパーマーケットやディスカウントショップが増えてきた。夜の９時、10時まで開いているのは、ほとんど当たり前になり、最近は深夜１時２時、中には24時間オープンのところもできてきた。地元のスーパーが遅くまで営業しているので、主婦ＯＬは、もはや、ターミナルデパートなど会社近くの店であわてて食材を買う必要はなくなった。

小売店の営業時間が延びれば、そこで働く人たちの働く時間帯も、玉突き的にバラバラになっていく。彼らも、また、深夜営業、24時間営業の小売店の恩恵を受けているわけだ。

最近は、レジャー施設の分野でも、時間に着目するところが増えてきた。もっとも興味深い例の一つが、今年の３月、臨海副都心にオープンした「大江戸温泉物語」だろう。　「大江戸温泉物語」は、一言で言えば、江戸をテーマにした温泉テーマパークだ。約３万平米の敷地に、大名屋敷のような建物が建ち、その中には、吉原や深川や東海道五十三次をイメージした町並みが作られている。そこに、露天風呂、内風呂、足湯、岩盤風呂といった風呂や、すし屋、そば屋、酒の飲める店などの飲食店や駄菓子屋などがそろっている。

入場券を買った客は、まず、大店「越後屋」に行き、浴衣を借りる仕組みになっている。浴衣は、「八百屋お七」「堀部安兵衛」「遠山金四郎」など１９種類の絵柄がそろっており、その中から好きなものを選べる。全員が浴衣姿になって、江戸の模型の町を散策するため、江戸の気分が盛り上がるわけだ。

このテーマパークでは、客のターゲットは都会に住む中高年者を想定している。都内の繁華街やレジャー施設のほとんどすべては、若者を対象にしており、中高年者は遊ぶところがほとんどない。だから、彼らの遊び場をつくろうとしたわけだ。そこから、「伝統」や「風呂」というコンセプトができたという。　もっとも実際には、高齢者にまじって大勢の若者カップルやファミリー客がいる。若者をターゲットにすれば、中高年や家族連れは入りづらいが、中高年相手の場所に入ってくことに抵抗を感じる若者は少ない。結果として、あらゆる世代を対象にできたわけだ。

さらに、「大江戸温泉物語」では、営業時間を朝の11時から翌朝の９時まで伸ばすことで、あらゆる人を取り込もうとしている。平日の昼間は中高年の女性客、夜間は、国際展示場「東京ビックサイト」帰りの客や、周辺企業の宴会需要、深夜はトラック運転手の仮眠所、早朝は深夜バス利用者などの朝風呂といった具合だ。もちろん土日は、老若男女でごったがえしている。それは、いいかえれば、フレックスタイムや裁量労働制のサラリーマンや、勤務時間がずれた小売店の従業員も利用しやすくなったわけだ。

一方、今年の５月に東京ドームシティ内にできた「ラクーア」は、ちょっと空いた時間に遊べることを一つのコンセプトにしている。「ラクーア」は、スパと商業施設に、観覧車・ジェットコースターを組み合わせた複合施設だ。東京ドームは男性のイメージが強く、遊園地はファミリーのイメージが強い。だから、ラクーアは、それまで欠けていた若い女性をメインターゲットにしたという。老若男女を対象にした施設がそろうことで、やっと東京ドームシティが街らしくなったわけだ。

「ラクーア」のオープンに合わせて、遊園地部分は入場料が無料のフリーゲート制に変わった。それによって、野球やコンサートが終わった後、あるいは会社の帰りなど、ちょっと余った時間に、遊園地内の一つか二つの乗り物に気軽に乗れるようになった。また、１時間くらい時間がある時には、日本初のブランドや高級スーパー、また、レストランやファーストフードがそろう商業施設でウィンドウショッピングや喫茶や食事が出来る。ネイルサロンも、いい暇つぶしになる。３時間くらいゆったりした時間があれば、アジア風サウナ、大浴場、露天風呂、マッサージ効果のあるアトラクションバスなどさまざまな温泉施設がそろっているスパでゆったりすればいいわけだ。

「大江戸温泉物語」が、営業時間を伸ばしていろいろな生活時間帯の人に対応したのに対して、「ラクーア」は、空き時間に合わせた楽しみ方を選べる場をつくって客を集めようとしたわけだ。

時間に関しては、一番先行しているのは、飲食店や小売店であり、すでに、24時間営業のコンビニ、ファーストフードなど、様々な業態を生み出してきた。同様の傾向が、レジャーやほかのサービス業にも広がってきたといえよう。すでに美容室や理髪店では、深夜営業、クイックサービスも現れた。深夜営業が当たり前のマッサージでは、クイックマッサージ流行中だ。

街でみれば、このような時間型サービスは、歓楽街では昔から当たり前だった。たとえば、歓楽街のすし店は、夕方５時くらいから明け方まであけている店が多い。６時、１２時、３時に訪れる客のピークに合わせているわけだ。それは会社が終わった後、クラブやバーが終わった後の時間だ。６時から12時は男性相手のクラブで、１２時からはホステス相手のホストクラブに切り替える店もある。最近では、10分単位で料金が派生するキャバクラもある。また、深夜営業のブティック、花屋、最近はペットショップまでできた。外国人ホステス相手には、深夜エスニック食材店や料理店もある。食材が足りなくなった飲食店や、家路に向かうホステス相手のスーパーマーケットもある。こうしてみると、街に出入りする人たちのライフスタイルを実によく観察した時間型サービスが並んでいる。

ビジネス街や繁華街や住宅街でも、よく観察すれば、それぞれの街独自の生活パターンが浮かび上がってくるはずだ。「大江戸温泉物語」や「ラクーア」でも、周辺を通過する人たちのライフスタイルから、時間型サービスの種類を割り出している。現在、多くの小売店や飲食店が売上げ不振に悩んでいるのは、街の時間、客の時間よりも、自分の時間を優先しているためなような気がする。大手企業が、時間型サービスに本気で取り組み始めた現在は、そうした店は、ますます苦しい立場に落ちるだろう。