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リサイクル社会の実現は、システムづくりから

現在、家庭やオフィスから出される生ゴミ、紙などの「一般廃棄物は、約 五千万トンに達する。それは、東京ドーム約 百三十杯分に相当する。そのうち約一割がリサイクルされており、残りは焼却したり埋め立てられたりしている。焼却した時に発生した灰も埋め立てられる。直接埋め立てられる分が、約五百万トン、焼却灰として埋め立てられる分が、約八百万トン、合計千三百万トンが埋め立てられる。

一方、汚泥や瓦礫など事業活動に伴って排出される産業廃棄物は、一般廃棄物の約八倍の四億トンに達している。そのうち四割程度が再生利用され、残りは焼却などで量を小さくした上で埋め立てられる。最終的に埋め立てられるのは、一般廃棄物全体より二割程度多い約六千万トンだ。

一般廃棄物と産業廃棄物を合わせると、毎年毎年、東京ドーム二百杯分くらいのゴミが埋め立てられているわけだ。これでは、いくら土地があっても足りない。ゴミの排出量を少しでも減らさなければならない。すでに、「廃棄物処理法」「再生資源利用促進法」「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」をはじめ、さまざまな法律ができてきた。リサイクル社会に向けての法制度は、徐々に整いつつあると云えよう。

ところで、リサイクル社会を実現するためには、幾つか克服しなければならないポイントがある。最も重要なことは、ゴミを材料別に分ける上手いシステムを作ることだ。

例えば、建築資材専門の産業廃棄物処理工場では、驚くことに、破棄物を手作業で分けている。工場内のベルトコンベヤーの上を、鉄、合板、プラスチック、木材、段ボールなど、建設関係の廃棄物の他に、ペットボトルや、蛍光灯のガラス管まで流れてくる。ベルトコンベヤーの両サイドに作業員が立ち、それらのゴミを手で分けていくのである。現在の技術では、磁石を利用した機械で鉄を分類することくらいしか出来ない。だから、わざわざ人間が、ものすごい粉塵が立ちこめ、冷房も暖房もない工場の中で作業を進めなければならないわけだ。

産業廃棄物処理会社で株式公開を予定している超一流企業㈱タケエイの最新鋭の工場でも手作業が中心であることには変わりない。同社では、廃棄物を、砂、チップ、鉄くずなど・全部で二十三品目に分けている。また、段ボールにエアーパッキンやガムテープが付いていれば、紙に再生できなくなるので、それらをいちいち手で剥がしている。

細かく丁寧に分ければ、当然、コストがかかる。建設会社の中には、いい加減な処理をする業者や、不法投棄をする悪質な業者処理を委託してコストを抑えているところもある。不法処理が行われても、困ったことに、処罰されるのは処理業者だ。不法投棄を平気でやるような悪質な業者は、たいてい、零細企業なので、つぶれても、つぶれても、すぐに新しい会社を作ってしまう。これでは、いつまで経っても、悪質な業者を排除できない。もちろん、それは、どの業界でも同様だ。悪質な業者を排除するためには、そのような業者に廃棄物を出した企業を罰する法律を作ることが重要だ。

もう一つのポイントは、廃棄物の処理コストを抑えるシステムを社会に組み込むことだ。まず、メーカーは、分別が容易な製品を作るべきだろう。消費財を例にとると、数年前までは、ペットボトルには金属のふたが付いていた。それだから、せっかく消費者がペットボトルを、スーパーやコンビニエンスストアーの回収箱に戻しても、そこに金属が混じったままで、結局、分別に手間がかかった。現在では、ペットボトルにはペットのふたが付いている。このように、技術的には全く問題がないにもかかわらず、消費財メーカーは、分別処理について少しも考えていなかった。分別処理を困難にしている製品は少なくないだろう。それを考えるだけでも、分別はぐっと楽になるし、埋め立てるゴミの量も減少するに違いない。

何よりも重要なのは教育だ。都内の幾つかのゴミ収集所を眺めれば、ゴミを出す日、分別、使用する袋などのルールが守られている所と、守られていない所との差は一目瞭然だ。地域の暗黙の教育があるのかもしれない。

主婦は、子供の将来を真剣に考えるので、いつの時代も環境問題に対する関心は深い。現在では、スーパーマーケットの店頭には、「ペットボトル」「牛乳パック」「発泡スチロールの容器」等を分別するための回収ボックスが置かれている。自治体に出せば、これらのゴミは焼却されるので、多くの主婦は、買い物のついでにわざわざ家から、これらのゴミを運んでくる。回収箱は、すぐに満杯になる。販売員は、回収箱の入れ替えに大忙しだ。

ファースト・フードでは、客が食べ終わった物を下げる時に、ゴミに関しては、「氷や飲み残しの水類」「紙類」「たばこ」などに細かく分けて捨てなくてはならない。飲食店やコンビニエンスストアーでアルバイトした経験がある学生は、分別が習慣になる。それが社会的訓練だ。

最近は、多くの大学や高校が、学校の授業として、仕事を経験する「インターンシップ制度」や「ボランティア」活動をも採り入れるようになった。彼らに、廃棄物処理会社の分別作業や町内会のゴミ分別のボランティア活動を体験させることも、高い教育効果を上げられる一つの手だろう。

ところで、かって、日本人は「安全と水はタダ」だと思っていた。ところが、人々が健康に気遣うようになるとともに、大半の人がペットボトルや浄水器の水を飲むようになった。また、警備会社に依頼すればお金がかかる。それによって、安全も水もコストがかかると分かるわけだ。同様に、廃棄物の処理には、どんな作業が必要であり、どのくらいのコストがかかるのかという因果関係がはっきり分かる形になれば、それを社会全体でどう負担していくかの本格的な議論が始まるに違いない。

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