簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

ネットオークション市場の発達と影響

インターネットの普及率が高まるとともに、ごく普通の人がネットオークションを利用するようになった。ネットオークションの体験者が増えるとともに、現実世界の価格付けのやり方も変わっていくかもしれない。

最近、日本でもネットオークションがポピュラーになってきた。オークション・サイトは、大手企業が運営しているところだけでも３～４０サイトはありそうだ。最大手の「ヤフー・オークション」では、登録者数が、１７０万人にも達しており、毎日約２５０万点の商品が競売にかけられている。

ネット・オークションに出品されている商品は、個人の不要品から業者の在庫まで実に多様だ。急な用事で行けなくなったコンサートや演劇のチケット、衝動買いしたが全く使わなかったブランド品、壊れたカメラ、ワールドカップの入場券の半券まである。壊れたカメラは、修理用の部品として人気が高いそうだ。ゴミでしかないワールドカップの入場券の半券は、驚くことに５０００円で売れていた。新品の自転車や包丁セットなどが、最低入札価格１円で出品されていることもある。もっとも、こうした買い得商品は、買い手が殺到するので、価格は競り上がる。

ところで、ネットオークションにおける買い手にとっての情報は、デジカメで撮影した商品写真と文章の商品説明だけだ。それにも関わらず、時には、中古の玩具に５万とか10万の値がつくこともある。一番多い取引手続きは、まず、落札者が、代金を出品者の指定口座に振り込み、出品者は入金を確認した後に商品を発送するというやり方だ。万一、落札者が代金を払ったにも関わらず、商品が届かなかった場合は、ヤフーの場合は、最高50万円まで、楽天の場合は20万円までといった補償がついている。

ネットオークションが盛んになるとともに、ヤマト運輸や三井住友銀行をはじめとする運送会社や金融機関が、買い手と売り手の間に入って、決済から商品の受け渡しまでを総合的に請け負う「エクスローサービス」がいくつも誕生した。また、個人でも、簡単に「代引きサービス」を利用できるようになった。このようなサービスを利用すれば、詐欺に合わずにすむが、仮に被害にあったとしても、オークションサイトの補償がある。「エクスローサービス」や代引きサービスは、高い手数料が嫌われ、利用者はほとんどいない。

もちろん、オークションサイトでは、詐欺を防ぐために、いくつかの手順を踏んでいる。ネットオークションに入札したり落札したりするためには、まず、オークションサイトの会員になる必要がある。会員になるためには、落札手数料やシステム使用料などを引き落とす銀行口座やクレジットカードナンバーを指定しなければならない。それらは、身元証明の役割も果たしている。もし、悪質な会員がいれば、その人を排除することは可能だ。

よく考えてみれば、そもそも詐欺をするような人の絶対数は少ない。忙しいので振り込む暇がなかったとか、発送するのを忘れてたといった悪意がないケースの方が多いだろう。素人が売買に携われば、このような問題が頻発しそうだ。ところが、大抵、落札から一週間以内くらいで取引は終了している。

問題の発生を防いでいるのは、オークション参加者の履歴が公開されていることらしい。たとえば、私が、オークションで本を販売したとすれば、落札が決まると、オークションサイトが、即座に落差者のメールアドレスを知らせてくる。アドレスの横には、「落札者を評価する」という欄が設けられている。落差圧者が、すぐに代金を振り込んできたら、「落札者を評価する」をクリックして、「素早い入金、ありがとうございました」といったメッセージを書き込むわけだ。同様に、入札者は、「出品者を評価する」という欄をクリックして、「商品が届きました。丁寧な梱包ありがとうございました」といった礼を書き込むのである。落札されたり、落札したりする都度、評価が書き込まれるので、100回の売買をすれば、100個の評価が書き込まれる。オークションサイトの会員それぞれには、あらかじめ専用のオークションページが作られ、評価はそこに掲載される。私のオークションページを見れば、誰でも、私の過去の取引に関する評価を見られるわけだ。

出品者や落札者は、このような過去の取引を信用の目安にしている。もし、入金が遅れたり、発送が遅れたり、商品説明が不親切であったことなどを非難する評価を書かれれば、サイトにおける取引の信用はなくなる。だから、落札されれば、すぐに入金方法などに関するメールを送り、落札者は、すぐに入金してくる。ネット上で、昔のムラ社会のような監視機能が働いているわけだ。それはアメリカでも同様だという。

オークションの信用機能が整うにつれて、オークションを利用する人は増えてきた。オークションサイトも百貨店や繁華街などと同様に、沢山の商品が揃っていて、沢山の客が集まっているところが活気を帯びる。買い手が沢山集まるオークションサイトは、商品が落札されたり、高値で売れる確率が高くなる。売りやすければ、さらに良い商品が集まるので、買い手もさらに集まるといった循環が始まる。

これまでは、ヤフー・ジャパンの一人勝ち状態が続いていた。今年の４月１日の商品出品数は、ヤフー・ジャパンの440万点に対し、楽天は130万点、ビッダーズは約１６万点だった。今年の４月から、ヤフー。ジャパンが、会員に対して、システム管理料や出品料の徴収を始めた。他のオークションサイトは巻き返しのチャンスでもある。

現在２位のビッダーズは、ソネット、ライコス、ビッグローブなど大手プロバイダーやポータルサイトが主催している約40のオークションサイトと提携したり、出品料を無料にすることで、これまでの３倍近い50万点の出品数を確保した。３位の楽天フリマオークションも、出品料無料キャンペーンなどを実施したり、サイトの全面リニューアルに着手し始めた。上位３社が激しく競り合っている状態だ。この過程で、ヤフージャパンは出品数を200万点落とした。中小のオークションサイトや専門サイトは、もはや見る影もなくなった。たったの数10点くらいしか出品数を確保できなくなったところも少なくない。

競争が激しくなるとともに、様々な買い物方法も登場した。たとえば、100個同じ商品が出ていた場合、単純に１番から100番までの入札価格で単純に販売するケースもあれば、上位100人の入札価格の合計を100でわって同じ価格に揃えるケースもあるといった具合だ。

今では、オークションサイトの方が、小売店よりも、はるかに沢山の商品が集まるし、根付けの方法も多様だ。すでに、洋服から雑貨まで、オークションサイトで買っている人も現れた。企業の中には、新製品の定価を決めるために、わざわざ最低価格１円でサンプルを出品するところもあるそうだ。もし、3000円の値がつけば、定価を3000円くらいにすればいいし、100円くらいしか値がつかなければ、発売する価値がないのかもしれない。

ネット・オークションの世界では、まさに経済学でいう、その瞬間瞬間の需給によって価格が決定するという法則が、見事に実現している。このような買い物を経験する人が増えるとともに、近い将来は、現実世界でも定価という概念はは通用しなくなるのかもしれない。