その他の連載・論文

SRI 時々刻々
簡易保険資金掲載文
その他

簡保年金資金掲載文(小泉三保子との共同執筆)

情報化社会のコスト

情報化の進展によって、離れた場所と瞬時に様々なやりとりができるようになった。それとともに、法律の思わぬグレーゾーンが発生した。

最近、オンラインカジノが世界的なブームだという。オンラインカジノは、ネットを通じて行うカジノのことだ。そこでは、スロットマシーン、ブラックジャック、ルーレット、ポーカー、バカラをはじめ、ほとんど全てのカジノゲームができる。

オンラインカジノは、10年くらい前に誕生し、現在では、2000サイト以上あるといわれている。イギリス政府は、ブックマークなども含めたネット上の賭博市場は50億ドルを越えているという推計を出しているそうだ。

世界には、賭博が許されている国や地域が沢山ある。オンラインカジノの運営会社は、そうした場所で、認可を受けて運営している。運営会社の中には、大企業も少なくないそうだ。オンラインカジノのフランチャイズチェーンも登場している。

オンラインカジノが広がるとともに、様々な問題が広がってきた。その一つは、賭博中毒の人々の増加だ。オンラインカジノは、自宅で24時間いつでも遊べる。賭博好きの人は、歯止めが利かなくなるわけだ。最近では、賭博依存症から立ち直るための一種のカウンセリングサイトもできた。

オンラインカジノのサイトが増えれば、当然、悪質な業者も紛れ込む。イギリスには、オンラインカジノを監視する組織もできた。市場が大きくなるにつれて、オンラインカジノは、犯罪組織の強請のターゲットになってきた。犯罪組織から要求されたお金を払わなければ、一斉に、カジノのサイトにアクセスして、サーバーを混雑させてしまうそうだ。

オンラインカジノの最大の問題は、どこの国からでもアクセスできることだ。賭博が許されている国よりも、禁じられている国からの方がはるかに多い。これまでは、賭博を禁じられている国の人は、たまの外国旅行で、賭博を楽しんでいた。

ところが、ネットの発達とともに、世界中の誰でも、簡単に賭博ができてしまうわけだ。国内での賭博を禁じている国でも、大抵は、ネットによる賭博を直接取り締まる法律はない。

数年前から、日本でもオンラインカジノの愛好者が急増しはじめた。ヤフーで「オンラインカジノ」を検索すれば20万件近くもヒットする。日本のオンラインカジノの愛好家は50万人に達するという説をたてている人もいる。 日本人の参加者が増えた大きな要因は、大容量のブロードバンドが広がったことだろう。それにともなって、オンラインカジノのサイト運営会社が、日本語のサイトを用意するようになった。

同時に、オンラインカジノの運営会社は、日本人の参加者を、一層増やすために成功報酬型広告を採用した。たとえば、Aさんが、オンラインカジノの遊び方のホームページをつくり、そこにオンラインカジノの広告を張り付け、それを見たBさんが、カジノの会員になって遊べば、Aさんに報酬が入るという仕組みだ。報酬の額は、Bさんが使った額の30%から65%くらいに達するという。売り上げが上がれば上がるほど、報酬率が高まっていく仕組みだ。

この報酬制度が、オンラインカジノの宣伝サイトを増やしている。この報酬を狙って、オンラインカジノでの遊び方や、信頼できるサイトの選び方などや体験談などを事細かに紹介するホームページがどんどん増えている。日本語サイトができたり、ゲームのやり方の解説が増えたので、日本人がカジノの参加するハードルは低くなり、参加者が増えた。

オンラインカジノの宣伝で、月に数10万円の稼ぎを上げている人は、ざらだという。いいかえれば、そのくらい多くの人が、日本で賭博をして負けているわけだ。掛け金のやりとりには、クレジットカード、海外送金、小切手などが使われている。クレジットカードを使えば、アクセスして、すぐに賭博ができる。

日本のサイトで賭博をすれば、明らかに違法だが、海外のサイトで賭博すれば、海外で賭博をするのと変わらないという説と、日本で賭博をしているから違法だという説がある。いずれにせよ現在のところは、摘発された人はいないそうだ。

少し前までは、ネット上で発生する国家や地域間の法律やモラルのギャップは、アダルトサイトくらいだった。ところが、情報化社会の発達とともに、あらゆる分野でギャップが起こってくる。

先日は、イラクで殺された香田証生さんの遺体の画像が、犯行グループによって公開された。その画像を日本の掲示版に転載した人がいたので、法務省は、掲示板の運営者に対して削除命令を出した。しかし、海外のヤフーにアクセスすれば、いくらでも同じものが公開されている。

もちろん、日本国内同士でも、問題は起こっている。たとえば、つい最近までは、偽造キャッシュカードで、預金が引き出されても、被害者が銀行なのか、預金者なのかすら決まっていなかったという。そのため、被害額は2億円以上に上っていたにも関わらず、逮捕も摘発も一件もなかったそうだ。最近になって、やっと法務省が被害者は銀行だという見解を示した。それにともなって、銀行業界は、今年の4月から被害届けを出すのは、お金を引き出したATMを所有する銀行と決めた。つまり、東京のA銀行の預金を、大阪のB銀行ののATMで引き出されれば、B銀行が大阪の警察に被害届けを出すわけだ。国内では解決のめどがたったが、もし、海外から盗まれればお手上げだろう。

情報化社会では、サービス提供者と受け手が違う国の人だったり、被害者と犯罪の発生地域が違うことが当たり前だ。これからも、国や地域の違いを逆手にとった商売や犯罪は広がるだろう。

それを解決していく最も良い方法は、ルールの統一だ。しかし、そのためには、国家や法律や組織などのあり方を根本から変えていく必要があるので不可能だ。

かといって、日本でネットにまつわる新しい法律をつくっても、効果的に取り締まる方法がない。本気で取り締まろうとすれば、ネットを巡回する膨大なマンパワーが必要だ。ひょっとすれば、有名無実の法律にしないために、法律をつくらないのかもしれない。今後もしばらく、様々な分野でグレーゾーンが生まれそうだ。それが、情報化社会における便利さのコストなのかもしれない。

ページのトップへ