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家庭に広がるリスク管理

「資産」や「安全」をはじめ、最近では、家庭にもリスク管理の発想が広がってきた。しかし、自分の経験だけでリスク管理をするには限度がある。企業や自治体と情報の共有化が図れれば、もっと高度なリスク管理ができるようになるはずだ。

最近、「リスク管理」という考え方が家庭にも浸透してきた。資産についていえば、「ポートフォリオ」を考え、預金、国債、生命保険、銀行、株式などに分散するのである。

いうまでもなく、ポートフォリオを組むためには、家族構成や将来の目標、それに、金利などの要素を組み合わせて考えなければならない。

たとえば、奥さんが専業主婦の場合と、働いている場合には、リスク回避のために必要なお金がまるで変わってくる。専業主婦が、家事を一手に引き受けているならば、彼女が事故にあった時には、治療代の他に、家事代行に関する費用を考えなくてはならないだろう。共稼ぎならば、夫も家事をやるから、家事代行の費用はいらない。しかし、およそ半分の収入が無くなる可能性が出てくるので、生活費を考える必要がある。子供の数や年齢によっても、万一の必要な資金は変わってくる。家族の性質によって、無限の組み合わせがあるわけだ。

低金利の時代が続いているので、積み立て保険は損であるから、その分、預金を蓄積したり株式で運用してリスクに備えるのととどちらがいいかを検討する人が増えてきた。

金融の自由化が進み、有利な貯蓄の運用は、預金の種類だけではなく、有価証券や生命保険などとも比較する必要がでてきた。M&Aをはじめとする企業動向、金利の動向、世界情勢などにも気を配らなければならない。

さすがに、ここまでやろうとすれば、片手間には難しい。そこで、ファイナンシャルプランナーに依頼する人が増えてきた。また、自分の資産を管理するノウハウを身に付けるために、わざわざファイナンシャルプランナーの資格を取得する人も増加の一途をだどっている。

いいかえれば、リスク管理は、専門家が成り立つほど難しいわけだ。

最近、安全に関する関心が高まっている。多くの人は、犯罪、地震、火事などから家族や家を守るために、ある程度の出費は惜しまなくなった。

今やセコムや日本警備保障に入っていても、特に資産家だとは思われない。マンションでは、オートロックや二重ロックは当たり前になった。パソコンには、有料のセキュリティのソフトを入れるようになった。地震保険に加入する人も増えた。

中でも、多くの人が高い関心を寄せているのが、地震と不注意による火事の予防だ。マンションでは、ガスが嫌われ、一切ガスを引かず、料理にも、風呂にも、全て電気を使うオール電化のところも少なくない。もっとも、つい最近までは、電気代が高く、また、火力が弱かったため、オール電化は消費者には不評だった。ところが、最近は、熱効率が高い器具が開発されたり、時間帯別料金が充実したりして、電気の使い勝手は格段によくなった。それによって、電気に切り替える家庭も増えてきた。

高齢化社会への移行も、こうした傾向に一層の拍車をかけた。高齢になると、コンロのスイッチを切り忘れやすくなるからだ。一定の温度になれば、自動的に火が止まるし、何よりも、洋服などに燃え移らないことが安心だ。電気なら、ガスと違って凹凸が無くなり、コンロが平らになるため、掃除が楽なことも評判がいい。

それに対抗して、ガスの使い方もどんどん便利で安全になっていった。現在では、ガスコンロでも、鍋の温度が上がりすぎれば、自動的に止まる。風呂の温度調整や湯量調整もできるようになった。ガスの床暖房もポピュラーになってきた。

ところが、今年の1月の大雪によって、新潟や青森や秋田で停電が起こり、電化が進む生活のもろさが露呈した。コンロがつかないのは当然だが、ガスの風呂やシャワーも電気で制御されているために使えない。さらに、石油ファンヒーターも、火事を防ぐために電気で制御されていて使いものにならなかった。10数年前の石油ファンヒーターを引っ張り出して、やっと寒さを凌いだという人もいたという。せっかく動力が、電気とガスと石油にわかれていても、制御する動力が電気に一本化されているので、リスク管理の観点で考えれば、オール電化の生活と代わりはないわけだ。幸い、停電は、数時間で終わったが、地震などが原因だったら、こうした被害はもっと広範囲に、また、もっと長時間続くだろう。

もっとも、現在のように、テロや大規模な自然災害や外国人による犯罪など、予想外の事が次々に起こる時代には、リスク管理の長い歴史をもっている企業や国家でも、充分な備えをすることは難しい。

ところが、IT化とグローバル化の進展によって、企業や国家の結びつきは強くなり、一つの企業、一つの国家のトラブルが、世界中に飛び火するようになってきた。こういう時代に、各企業、各国が、勝手にリスク管理をしていては、リスク分散したつもりが、結局は、全て電気に頼っていたという家庭と同レベルのリスクが発生する可能性もある。

そこで、たとえば、ISO(国際標準化機構)では、企業や自治体などを対象としたリスク管理に対する新しい認証を、主要国と話あってつくるそうだ。

かつて、環境や品質管理のISOの取得熱が世界的に高まった。リスク管理体制のISO取得熱も高まるに違いない。それと同時に、ISOの取得を指導する様々なコンサルタントも誕生するだろう。これまでは、各企業、各国が、勝手にリスク管理をしていたが、新しいISOの取得熱が高まれば、リスク管理に関する情報の共有化が進んでいくことが期待できる。

リスク管理に関するISOでは、地元住民を保護したり、復旧を支援する体制が整っているかといったことも審査対象に加えられそうだという。そうなれば、周辺の被害に他意直接・間接の負担についてトータルに考えるようになる。

たとえば、地震が発生して住宅街のブロックが倒壊して道路が封鎖されれば、消防車は通れなくなる。そこに火事でも発生すれば、類焼しても打つ手がない。それならば、普段から、企業は、火事を防ぐ家づくりや、地震でも倒壊しないように塀の補強に務めるように、啓蒙活動をしたり、災害対策を目的とした工事費用の一部を負担した方が、全体としてコスト負担は安くすむことは明らかだ。自治体も同様だろう。

こうした情報が広がれば、各家庭にも、企業や自治体に蓄積されたリスク管理のノウハウが還元されるはずだ。そうなれば、資産におけるリスク管理のように、家庭でも、安全に関するリスク管理のノウハウが蓄積されていくだろう。また、企業の商品開発や販売促進の姿勢もリスク分散型に変わるはずだ。

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