静岡新聞論壇

12月8日

ミヤンマー、民主化の危うさ

内戦より軍事政権

クリントン氏は、アメリカ国務長官としては、56年ぶりにミヤンマーを訪問した。彼女は、ミヤンマー政府が国民の自由な政治活動を認め、すべての政治犯を釈放する等の民主的政策を実施すれば、経済封鎖を解除し、経済援助を供与するという。  

ところで、ミヤンマーで軍事独裁政権が続いたのは、それ相当の理由がある。1948年に独立した時は、ミヤンマー(ビルマ)軍は、内戦に敗れてミヤンマーの北東部に侵入した中国・国民党軍と戦い、國を守った。

ミヤンマーでは、ビルマ族が70%、シャン族、カレン族がともに10%、その他の少数民族が10%を占めている。それぞれ固有の文化、言語、宗教だけではなく、文字を持っている民族もある。彼等が多く住む東部や北部の州は半独立國の状態にあり、少数民族は武装し、独立の機会を狙っている。タイ、ラオスとの国境地帯は、麻薬産地であって容易に資金を調達できる。

もし、ミヤンマーが、20年前、アンサンスーチー氏主導の民主国家に変わっていたならば、少数民族が独立戦争を続け、混乱しただろう。ところが、軍事政権が人権を無視して、少数民族の独立運動や反政府運動を徹底的に弾圧してきた結果、平和が保たれた。国民の多くは悲惨な内戦より、自由を奪う軍事政権の方がましだと思ってきた。 

長期の独裁政権は腐敗するものだ。その上経済政策にも失敗して、物価上昇が続いた。08年頃、国民の批判が高まり、軍の影響力が低下して、少しずつ民主化され、スーチー氏は軟禁を解かれた。

アメリカは、どの国でも独裁政権が倒れれば、すぐ民主主義政権が生まれ、国民生活は向上すると錯覚し、独裁政権の打倒こそ、アメリカに課せられた人類的任務だと疑わない。確かに、敗戦後の日本はそうだったが、それは例外中の例外である。  

最近、チェニジア、エジプト、リビアでは独裁政権が倒れたが、軍部や部族間の勢力争いが激しく、結局、イスラムの非民主政権が生まれそうだ。イラクではフセイン独裁政権が倒れると激しい内戦が発生し、アフガンでは、アメリカが支援している民主政権の下で熾烈な内戦が続き、タリバンが優勢である。

政府弱体化のもと

ソ連では、90年代に、独裁政権が倒れ、民主政権の下で、経済の混乱によって国民生活が破綻し、またチェチェンの内戦が激化した。プーチンの独裁政権が誕生してやっと平穏になった。  

ミヤンマーは、太平洋とインド洋の結節点に位置する重要な國であり、中国は道路、ダム等のインフラ建設に協力すると同時に、雲南省から重慶に達するパイプラインに着工している。完成後、中国は中東の原油・天然ガスを、マラッカ海峡を通らないで、安全に入手できる。

ところで、ミヤンマーは中国に接近しすぎると、内政干渉を受ける。またインドやアメリカとの関係が悪くなる。アメリカはミヤンマーと密接になりたい。しかし、民主化の強い要求は、ミヤンマー政府の支配力を弱め、内乱を生むもとになる。

 

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