静岡新聞論壇

6月23日

自然エネルギーは技術革新の種

「天候次第」どう克服

原子力発電は完全に確立した技術であるから、安全のはずだった。しかし、今後、太平洋のプレート大地震や各地の大型断層で大地震が発生する可能性と原発の危険性が明らかになった。  

世界は、今後、次第に原発國と反原発國に分かれそうだ。中国やインドでは電力不足の上、主たる電源は汚染の石炭火力であり、国内輸送の過半は石炭の長期輸送に奪われている。これらの国では燃料輸送量が少なく、CO2を排出しない原発を工業地帯近く建設したい。大地震発生の可能性がゼロに近い地点が選ばれ、将来、原発が主要な電源になるだろう。

中国では、核兵器開発を平行して行われているから、原発技術の進歩が早い。山岳地に廃棄物処理場を確保できるだろう。20年後には、中国やインドは低価格の原発電力を利用して、巨大な経済国に発展し、日本経済を遙かに追い抜いている可能性が大きい。

地震国・日本では、自然エネルギーへの依存を可能な限り高めたいが、問題は発電量が天候次第であることだ。どうするか。まず発電量の不足に対する準備として、火力発電所を運転し続け、自然エネルギーが不足した時フル運転に変える。ここでは、火力発電の連続運転という無駄が発生する。  次に、需要者が節電するのだ。スマートメーターが普及すれば、一般家庭は、現在どれだけの電力を消費しているかが判る。電力不足の時には料金を高くし、余っている時の料金を低くすれば、需給がある程度、調整できる。

では、発電量が多すぎる時はどうするか。下手をすると、その地域に全面停電をもたらし、大混乱が発生する。太陽光発電や風力発電を瞬間的に止めれない。そこで過剰電力を吸収・蓄積する膨大な容量の蓄電池が必要になる。幸い、電気自動車が普及し始め、その蓄電池が使える。解決の道が開けそうだ。電気自動車のオーナーは電力料金が安い夜に蓄電するから、電力需給のバランスに役立つ。   

しかし、緊急時にはのんびりと、需給関係をプライスメカニズムに任せられない。電力系統の責任組織(現在で言えば、電力会社)は、強権を発動せざるを得ないのだ。例えば、電力不足の時には、スマートメーターを通じて地域の家庭の電力消費量をカットし、電力過剰の時には、地域にある電気自動車の蓄電池に勝手に蓄電して、危機を克服するのだ。

日本企業が得意の分野

何れにしろ、再生エネルギー時代に移るためには、太陽光・風力等の発電設備、分散型エネルギーシステム(地域における自家発電、その余熱エネルギー、太陽光発電等との組み合わせ)、電気自動車、各種スマート機器、複雑な電力消費コントロール等、多様な設備・機器、システムの開発が不可欠だ。
ところで、日本の製造業は細かい技術を摺り合わせ、積み上げて、優れた製品を創るのが得意である。その際、周辺企業の関連技術の発展を考察して、それとテンポを合わせ、調和して進むという特技を持っている。系列中小企業が強力だ。
震災地における工場では、従業員に蓄積された日本企業独特な技能が見事に発揮され、驚異的なスピードで再建され、世界を驚かせた。自然エネルギーについても、日本の産業が得意とする技能分野が多く、多様な企業が激しい開発競争を展開するだろう。外国技術を広く利用すれば、エネルギー革命の先頭を切れそうだ。

ところで、日本産業は韓国、台湾、中国に追い上げられており、高コストの自然エネルギーが急速に導入され、電力料金が上昇すると、工場の海外移転が進み、日本経済はさらに弱くなる。さし当たって、原価償却が進んだ安い原発電力を利用して、自然エネルギーの開発力に厚みを加えることが重要だ。 

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