静岡新聞論壇

7月21日

電力の地産池消は大学から

脱原発には長い時間必要

原発事故の怖さは放射性物質が長く残ることだ。その放射性物質は食物連鎖を通じて、私たちの内部に蓄積される。福島原発事故では、国民がどの食物を通じて、どの程度、内部被曝しているか分らない。  政府は福島原発事故の直後に20キロ以内を避難地域に指定した。最近、70キロ離れた浅川村の肉牛から國の基準値を遙かに超える放射性セシウムが検出され、それは四国や九州にも出荷されていた。肉牛は100キロ以上も離れた農家で生産された放射性セシウムを含んだ藁を食べていた。  

アメリカ政府は震災直後に、80キロ以内のアメリカ人に退去勧告を発した。今になってみると、正しい判断だった。

被曝によるガン発生率が高いのは子供であるから、母親は不安に苛まれている。また汚染地域の住民はずっと家に戻れないかもしれない。菅総理だけではなく、すべての国民は核エネルギーを自然エネルギーに変えたいと思っている。 問題は直ぐ脱原発になれないことだ。日本では、電力供給の30%を原発に依存しており、太陽光や風力等の自然エネルギー(水力を除く)への依存は1%に過ぎない。それらの発電コストが非常に高い。  

その上自然エネルギーは天候次第によって発電量が変化するから、停電が起きないように多数の蓄電池を配置し、IT技術を駆使して電力需給を調整する「次世代送電網」を開発しなければならない。自然エネルギーへの転換には長い時間が必要だ。 現在、原発が定期検査に入ると、自治体の反対が強いので、再稼働出来ない。この状態で推移すると、来年にはすべての原発が止まり、全国的に電力不足になる。企業は生産計画を立てることが出来ないから、安定した電力を求め、工場を海外に移転するだろう。日本経済の空洞化がさらに進み、失業が増加しそうだ。   

しかも、内需刺激政策を実施できない。内需が拡大すると、電力需要が増え、電力が不足して、直ぐ失速するからだ。日本経済には、自然エネルギーに対して大規模な開発投資を進め、かつ高いコストの自然エネルギーの電力を使って、国際競争を凌げるだけの経済力がないのだ。

地域から広げる共同研究

そのため、経済に重圧を加えない長期的政策が必要である。建設後40年を経過した原発を順次廃止し、今から35年間で全廃するという考え方が有力だ。それまでの期間は、大津波に耐えるように防波堤を補強し、また高い場所に非常用電源をいくつも設置する等の大規模な原発補強工事を加えて、安全を守るのである。菅総理は、突然、ストレストテストの実施を決め、混乱を招いている。  

問題は、政府と電力会社が信頼を失っているから、住民がストレスト・テストの結果を信用しないことだ。東電は今までしばしば小事故を隠し、柏崎原発では近くを走る断層の調査の手を抜いた。九州電力は、ごく最近偽メール事件を起こした。  

自治体は、誰も当てにせず、独力で地域の安全を守る政策を提案する力を持つべきだった。幸い地方大学の実力が向上し、長崎大学出身者からノーベル賞学者が生まれた。静岡県には22の大学があり、光技術、先端工学、海洋工学、地震学、農学、食品栄養等の分野で優れた学者が多い。地元の企業には1流の技術者がいる。さらに世界から有能な学者を集めれば、妥当な浜岡対策が生まれるはずだ。  

今後、再生エネルギーが増え、企業の自家発電、企業や家庭の太陽光発電、電気自動車等の蓄電池が結合され、電力の地産地消がすすむだろう。そうした分散型電力は大学と企業の共同研究で開発され、まず大学内や大学間で利用され、都市に拡がるという経過を辿るだろう。大学間の強い連携が必要である。

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