静岡新聞論壇

1月20日

ヨーロッパ経済は東に動く

スペイン危機にドイツは

ヨーロッパ経済が混乱している。ユーロ圏の経済は、リーマンショックによって大打撃を受けた。それ以後、ドイツ、オーストリア、オランダのような強い國と、ギリシャ、アイスランド、南欧諸国等の弱い國とに、はっきり別れてしまった。

弱い國の代表はギリシャ、アイルランドである。放漫財政と銀行の無節制な貸出しの結果、財政赤字と貿易赤字が拡大し、昨年には、国債が信用力を失い、買い手がいなくなった。ユーロ圏の国々は経済規模に応じて両国に救済資金を拠出し、IMFの協力を得て、危機を逃れた。

現在、ポルトガルとスペインが危ない。今年の春に償還期限を迎える国債が多く、両国ともその資金を手当てできるかどうか、危ぶまれている。スペインは、EUのなかで第4位の経済大国だ。もし、スペインの国債が償還不能になり、市場価格が暴落すると、大変だ。ヨーロッパの銀行は膨大な額のスペイン国債をもっているので、大きな評価損が発生し、銀行倒産が増え、金融危機が再発するだろう。

スペイン経済を振り返ると、通貨がペスタからユーロに変わった時、通貨の信頼性が一挙に高まり、海外から資金を借りる時の金利が大巾に低下し、それに応じて、国内金利も下がった。折から、住宅価格が上昇していたので、国民は争うようにローンを借り、住宅を買った。バブルが発生した。

リーマン・ショックとともに、この住宅バブルは崩壊して、銀行は膨大な不良債権を抱えた。政府は銀行救済のために、巨額な財政資金を注入した。その結果、財政赤字が拡大し、国債発行が増え、国債価格が急落した。

経済強国のドイツがスペイン国債を買って救済すべきだと見解がある。これに対して、ドイツ人は「ドイツ政府が無駄な財政支出をカットし、賃金が低く抑えられて、バランスが取れた経済を創った。スペインでは、国民が経済力以上の贅沢な暮らしを送り、財政が破綻した。ドイツ人がそれを救う理由がない」と言う。

しかし、ユーロ圏では、ドイツが利益を食い逃げするのは、許せないという意見がある。ドイツの企業は、スペインで住宅バブルによって内需が拡大した時、ベンツを始めとする高級消費財を沢山売った。スペインの銀行が不振に陥ると、今度は高金利で資金を融資して、資金繰りを助けた。その過程でドイツの企業も銀行も巨額な利益をあげ、スペイン経済は不振になった。

EUへ影響強めた中国

もし、スペイン経済が破局を迎えると、ドイツは有力なお客を失い、かつ膨大な貸付金が戻らないから、ドイツは南欧諸国の救済に協力せざるを得ない。ユーロ圏で緊急融資システムが創られ、ドイツは応分の負担をすることになった。

ドイツとしては、南欧諸国と縁を切りたいだろう。南欧では公務員の労働組合が強力であって財政再建が難しく、また製造業が中国との競争に負けている。 ドイツの企業は南欧を諦め、労働力の質がよく、無理な要求をしないポーランドやチェコに工場を移転して、収益をあげている。

ドイツの歴史を振り返ると、東欧やロシアに経済進出して成長してきた。ロシアは、プーチン政権下で、エネルギー産業などの重要産業を国家管理に置き、秩序ある経済が生まれ、これから高付加価値産業を育成する計画だ。最近、ロシアに大規模な工場進出しているはドイツであって、ヨーロッパの成長部門は、東へ動いているといえる。

ところで、中国はユーロ危機に際して、ギリシャ、ポルトガルに続いて、スペインに対して大型な資金援助を決めた。ドイツの関心が東に移った隙に、EUに影響力を強めたいと考えている。世界は確かに動いている。

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