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8月4日
物価上昇と鉄道事故への不満
初歩的ミス、人命軽視
中国の高速鉄道は、着工後、僅か4年間で日本の新幹線の3倍以上の長さになった。それは豪華客車を連結し、世界最高のスピードで静かに走り、大都市の駅では、地下鉄網やバスのターミナルと直結している。今後、中国大陸を縦に4本、横に4本の高速鉄道網が完成するはずだ。これは大国に相応しい大事業である。
ところが、7月23日に温州市で追突事故が起り、その原因は信号機の故障、運行指示ソフトの欠陥、従業員の訓練不足といった高速鉄道を運行する能力を疑わせる初歩的なミスの積み重ねにあった。
事故処理も拙かった。事故発生後、直ぐ、追突した先頭車両を押しつぶし埋めてしまった。事故に対する反省や事故原因を追求する姿勢に欠け、如何にも、安全と人命を軽視しているかのように見えた。
北京ー上海間の高速鉄道は7月1日に開通したが、営業早々からトラブル続きであって、7月中旬には、電気系統の故障によって3回も緊急停止した。その原因として、開業日を共産党の創立90周年記念日に合わせるため、試運転期間を半分に短縮する等無理をしたこと、汚職が目立ち手抜き工事が多いことがあげられていた。高速鉄道は危ないという評判が立ち、乗客が少なかった。そうした時の事故だったから、国民の政府批判が激しかった。
その上、低所得層に不満がたまっている。それは物価上昇が続き、食料価格は、年間で14%も上昇し、豚肉は80%も高騰したからだ。
物価上昇の原因は、賃金上昇に伴う内需の拡大にある。高成長の結果、購買力が大きい約4億人の中産階級が生まれ、食料需要が爆発的に増えた。また耐久消費財ブームが続き、自動車、パソコン、携帯電話等の販売台数は世界最大になった。
食料や工業製品の原料である小麦、とうもろこし、鉄鉱石、エネルギー等の輸入が激増して国際価格を押し上げ、それが国内物価の上昇を加速した。中国経済の高成長が物価上昇の原因だった。
ところで、賃金上昇には産業で大きな差がある。自動車、IT、建設機械等の高付加価値産業では、売り上げが拡大し、賃金上昇率が高い。これに対して、繊維・雑貨等の低付加価値産業では、ベトナム、バングラディッシュ等、低賃金国との競争が激しくなった。企業は工場を低賃金国への移転するか、賃上げを抑え、かつ合理化するしか、生き残りの方法がない。
低所得層の怒り噴出
内陸からの出稼ぎ農民工は、繊維・雑貨等の産業で単純労働の仕事につき、低賃金で働いている。そうした時、食料価格が急上昇した上に、住宅価格が5年間では50%近く上昇した。低所得者用の住宅は利幅が少ないので、建設戸数が少ない。生活は苦しくなる一方だ。
ところが、中産階級は高級マンション住み、マイカーを乗り回している。農民工は格差拡大に対する憤懣を抑えられない。 繊維産業が集積している広州市の郊外で、6月に、数千人の農民工が政府建物や警察車両に放火した。こうした暴動が、全国で頻発している。
新幹線事故によって中国の威信が地に落ち、その上に低所得層の不満が噴出し、政府批判が全国に拡がっている。政府は事故報道をある程度自由化して、不満層のガス抜きを計り、また温家宝首相は事故の現場で安全を誓い、病のため訪問が遅れたことを詫びた。高速鉄道網は中国経済の発展にとって最も重要な計画であるから、間もなく、事故批判の言論は統制されるだろう。それが中国である。
日本では人災によって原発事故が発生した。それを忘れたかのように、高速鉄道事故について人災と安全軽視をあげつろう報道が目立った。温家宝首相は震災見舞いに来日してくれたのも、忘れたようだ。