静岡新聞論壇

8月18日

米国の衰退と世界の経済危機

グローバル化で景気息切れ

アメリカは、国家としての借金総額が対GDP比率でほぼ100%に拡大した。その原因は、まず、ブッシュ政権の時、リーマンショックから立ち直るために大規模な減税が実施されて、財政収入が減ったことだ。つぎにオバマ政権が社会保障費を大幅に増額し、第3にアフガンとイラク戦争に膨大な軍事費支出が続いていることである。

アメリカのGDPは、世界の20%を占めるに過ぎないが、軍事費は50%を占めている。それは覇権国家のアメリカが、世界経済のグローバル化を進めるためのコストと言えよう。アメリカ企業はグローバル化の先頭を走り、生産、事務処理、研究開発等を低賃金に移転し、また低賃金國の専門企業に発注してコストを引き下げので、利益が目覚ましく増大した。  

グローバル化の条件は、どの国も投資を自由に受け入れ、外国の投資資産や特許権を守り、自由に労働者を雇用できる制度を持つことがある。ところが、世界には独裁国が多く、外国企業の活動に制限を加え、また投資資産を没収し、さらに石油の供給を止めることもある。民主主義システムが広がりさえすれば、そういう理不尽な國がなくなるはずだ。

アメリカは軍事力によって、中東の産油国まで、グローバル化の輪に押し込めようとした。しかし、アフガンやイランでは、ゲリラ戦になり、10年かかっても勝てなかった。

アメリカ政府は、戦争などによって、財政が破綻状態あるから、不況対策として財政出動が困難になった。リーマンショック後、景気対策は金融政策に移り、長期間にわたって、超緩和政策が実施された。  

その成果が次第に実り、昨年から株価が上昇した。アメリカでは財産の多くが株式で運用されているから、それによって、個人資産が増え、個人消費が上向き、景気が回復するように見えた。  

しかし、グローバル化の結果、アメリカ企業の工場や事務所は海外に移転しているので、景気が回復しても、海外の工場だけで投資が増え、国内では設備投資も雇用も拡大せず、最近では景気は息切れした。景気の腰が折れると、世界の投資家は、景気回復のため、アメリカの超低金利政策がずっと維持されると予想して、ドル金融資産を売った。その結果、ドル安になった。

国債価格低下による混乱

悪いことに、8月の始めに大手格付け機関3社のうち一社(S&P)が、史上初めて、アメリカ国債の格付けを引き下げた。その理由は、アメリカの国債残高が膨張し、支払い金利が増加の一途であり、将来増税が必要である。しかし、増税反対のティーパーティーの政治力が強くなったので、金利支払いが不可能になるだろということだ。

世界各国は、アメリカ国債が最も安全な金融資産だと判断して、外貨準備の70%近くをアメリカ国債に運用してきた。1社の格付け機関による引き下げではあるが、米国債の信用低下は、ドルの基軸通貨としての機能を脅かす重大な事件である。

もし、信用力の低下を恐れて、世界で国債売却が進み、国債価格が低下すると、世界の中央銀行は損失を受け、国内金融機関への資金供給能力が低下して、経済が混乱する。特に、中国、日本の損失が大きい。折から、EUではギリシャやポルトガル等、財政破綻国の国債価格が暴落し、その国債を所有している金融機関の経営が危ない時に、米国債の価格低下が起きた。金融危機が深まりそうだ。

また ドル安とともに、アジア諸国の対米輸出が伸び悩み、この世界の成長センターの勢いが落ちてきた。世界的な大不況が来そうである。アメリカの経済力が低下し、ドルの価値が衰えた。しかしさし当たってドルに代わる通貨がないから、主要国はドル安の防止に協力している。

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