静岡新聞論壇

9月4日

再生エネルギーのための原発

安全な供給体制の確保を

20世紀の日本には、3回のエネルギー危機があった。1回目は1940年代の前半であって、アメリカによって石油供給を封鎖され、石油資源を求めて南方に兵を進め、2次大戦に突入した。

2回目は、1970年代の前半であって、第4次中東戦争が始まり、アラブ産油国はパレスチナに敵対する國に対して、石油輸出を禁止した。原油価格が暴騰し、日用品が市場から消え、猛烈なインフレが発生した。今後も、中東産油国から脅される危険性があり、そこから、逃れるために、原子力開発が猛スピードで始まった。

3回目が、現在の電力危機である。原発反対の世論が一挙に拡がり、大部分の原発が操業停止している。電力不足は、火力発電所のフル操業と節電によって、やり繰りされている。  

原油や天然ガスの価格が上昇しているため、輸入代金が膨張し、今年度の貿易収支は赤字に転落する可能性が大きい。景気がさらに下降し、失業者が増える恐れがある。  

エネルギーは国民生活と産業の基盤であり、安全な供給体制が必要だ。そのためには、エネルギー資源のバランスを保ち、1つのエネルギー資源の供給が絶たれても、国民経済が打撃を受けないようにすることだ。

ヨーロッパはエネルギー資源をロシアや中東・アフリカの産油国に依存しており、政治的理由によって、供給を止められるという恐れを抱いている。2006年に、ロシアはウクライナに対して、料金引き上げの目的で、天然ガス・パイプラインを締めたので、その影響はヨーロッパに及んだ。  

そのため、ドイツは石炭、フランスは原子力、イタリアは天然ガス、スペインは風力というように、隣接国が主要なエネルギー源を分担し、緊急の際には、電力を融通するようになっている。  

原発は、現在でも重要だ。これを廃止すると、ロシアに足元を見られて、天然ガス価格が引き上げられる恐れがある。スペインは風力発電が大きくなって、政府の補助金が膨張し、財政赤字が一層拡大するという問題を抱えている。

東電の原発事故は人災と云える。事故を起こした発電炉は構造上欠陥があり、災害に襲われた時、全電源喪失が起き、その上水素爆発が発生し易いと云われていた。35年も前に、アメリカ議会でこの欠陥問題が取り上げられたが、日本では無視された。

また、地震学者は古文書や地層によって、災害の歴史を研究した結果、巨大な地震や津波が発生していると警告していた。東電の研究ティームは、3年前に、10~15メートルの津波に襲われる可能性を指摘した。

再稼働で転換コスト下げ

もし、このような事実が真剣に受け止められ、大規模な改修工事が実施されていれば、大事故を防げたはずだ。東北電力の女川発電所は、アメリカで欠陥問題が議論された4年後に着工され、欠陥の一部が直されたので、震源地に近かったにも拘わらず、小さな被害で済んだ。

再生可能エネルギーは理想的な資源である。太陽光や風力による発電は、莫大な面積が必要であるから、地方に設置され、地域で発電した電力は同じ地域で使われるだろう。そのためには、地域内の細かい送配電システムと、発電装置、スマートメーター、蓄電池など機器が必要であって、巨大な投資になり、またそのために莫大な電力が必要である。

原発の大部分は、償却が進んでおり発電コストは低い。日本経済はすっかり弱くなっているので、休止している原発を再稼働させ、再生可能エネルギーへの転換コストを引き下げるべきだ。

原発事故の原因は人災であるが、世間では原発の宿命のように思われ、政府も責任逃れのために、その風潮に乗っている。

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