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11月8日
説得力ない「竹中構想」
役人の責任追及されず
銀行の不良資産問題を短期間で一挙に解決しようという「竹中構想」は、反対が多く潰された。「竹中構想」のポイントは、まずによる資本の増加額の上限を厳しく決めて、銀行の資本不足の状態をはっきりさせて、多くの銀行を公的資金の導入に追い込む。金融庁は、その機会を捉えて、経営陣を交代させ、厳密な貸付け資産の評価を実施させ、不良資産の処理を急がせようというのである。
この構想に対して、大手銀行は頭取を先頭にして激しく抵抗した。3~4年前から金融庁は会計基準を変更して、繰り延べ税資産を自己資本へ算入できるようにして、銀行の自己資本を膨らませるという政策をとってきた。ところが、今回、突然、それとは反対に、繰り延べ税資産額を大幅に圧縮し、資本不足になった銀行に責任をとらせるのは、余りにも朝令暮改だ。それは「サッカーだと思ってプレイしていたら、突然ラクビーのルールに変えられて、退場させられる」ようなものだ。
過去、10数年間、金融政策や金融行政の失敗が続いた結果、バブル経済が発生し、デフレ・スパイラルが深刻になった。その上しばしば不良資産の評価方法が突然変更されて、多くの銀行や証券会社が倒産し、経営者は刑事的責任をとらされた。しかし、役人だけは責任を追及されず、政策決定の責任者は円満に退職して、特殊法人の幹部や一流大学の教授に納まっている。今回も同じことが繰り替えられようとしている。
もし金融担当大臣と金融庁の幹部がそれまでの金融行政の誤りを反省していたならば、竹中案は説得的だっただろうが、反省の欠片すら示されなかった。金融界は自分たちだけの責任だけが厳しく追及されることを嫌った。竹中さんは、金融担当大臣が背負っている政策の継続的失敗という過去の債務に気がつかず、学者だから許されると気軽に考えたらしい。
また政治家や財界は、竹中案に不良資産処理に伴う倒産増大への対策がないことを問題にした。優れた技術をもつ中小企業の倒産は日本経済の大きな損失であるが、学者の竹中さんは経営的に弱くなった企業が倒産し、強い企業が生き残って発展することが日本経済の再建になると信じていた。しかし、批判が余りにも多かったので、産業再生機構をつくり、経営危機に陥っている企業のうち、立ち直れそうな企業に対して、メインバンクと協力し、追加融資や増資を行って救済することが決まりそうだ。
旧大蔵省の権力強大に
この政府金融機関は、債務過多の企業の生死を決定するという重大な機能を持っているので、優れた金融専門家を集め、かつメインバンクから正確な企業情報を得ることが必要だ。
しかし、よく考えてみると、整理回収機構や政策投資銀行の業務範囲を拡大すれば、企業再生の機能を果たせるはずだ。ところが新しく強力な政府金融機関をつくるという。すでに郵便貯金という巨大な国営金融機関が存在している。また今後、自己資本不足の銀行がつぎつぎに国有化されるだろうから、金融界における国営銀行のウエイトは圧倒的に大きくなる。果たして、国営銀行が企業再生や不良資産の処理といった難しい作業をうまくやれるだろうか。
国営銀行が膨張するとともに、旧大蔵省の権力は実に強大になるだろう。すでに竹中さんは経済財政・金融担当大臣であって、旧大蔵大臣に近い大きな権限をもっている。旧大蔵省は過去の失敗ばかりの政策に対する責任を取らないまま、金融危機と合理的な考え方をする竹中さんを利用して、権力の復活を目指しているように思える。「税効果会計」の見直しは先送りされた。竹中案が激しく批判される背景には、反官僚という根強い国民的感情がある。