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2002年
市場経済化と監視システム
存続の為の粉飾増大
経済が自由化されると、競争が激しくなるから、企業は生存の危機に押し込まれると、不正行為によって利益を増やそうとする誘惑に駆られるものだ。市場経済化が進むと、政府の経済界への介入が減るから、小さな政府に変わりそうだが、実際には不正を監視する機構が大きくなり、役人の数はあまり減らないらしい。
銀行行政を例に取ってみよう。現在、金融庁は金融機関の不良資産を短期間で解決するために、不良資産の内容を詳しく調べ、金融機関に対して破綻の可能性がある債権については償却するかあるいは十分な引当金を積むことを要求している。その結果自己資本不足に陥ったが、再生の可能性がある場合には、経営者の交代や大幅な減資を実施した後に、政府が公的資金を投入して救済するだろう。
政府が再生の見込みがないと判断した時には営業停止命令を出すか、さもなければ預金が流出して自然に破綻する可能性が大きい。すでに信用組合と信用金庫の数は10年前の半分になり、かなりの数の第2地銀が消滅した。先週には中部銀行が預金の流出が止まらず資金ショートが起こり破綻した。
金融庁はペイオフ解禁前に弱体金融機関を処理したいと考えている。その理由は弱体の金融機関がいくつか倒産すると、連鎖的な金融機関倒産が生まれ、金融不安が高まる可能性があるからだ。金融庁は現在全勢力を投入して金融機関の不良債権を調べ上げている。
十数年前までの金融行政は護送船団方式であって、大蔵省はすべての金融機関の経営を守るために、金融機関に対して仕事の内容、金利や手数料、支店の開設等を厳しく規制した。この競争制限政策によって、強い銀行は収益が増大し、弱い銀行は経営が安定するので、いずれも大蔵省の厳しい規制を進んで受け入れた。大蔵省は少ない人数で護送船団方式の銀行行政を行うことが出来た。
ところが、金融が自由化されると、弱い銀行は一層弱くなるから、不良資産を少なく見せかけて信用力の低下を防ごうとする。こうした粉飾を防ぐためには、すべての金融機関の経営内容を常時監視している機関が必要だ。それは数千人以上の専門家を抱える膨大な組織になるだろう。金融庁のような金融行政に関わる官庁は自由化とともに拡大すべきだった。
不正防ぐ機関が不可欠
他の業界でも規制の撤廃と自由化がすすむと、市場や企業を厳しく監視する機関が必要になる。食肉加工品の品質表示や原産地申告はでたらめだった。雪印のような大企業から、全農のような公共性がある団体の完全子会社まで虚偽の表示や申告を平然と続けていた。農畜産物の規制が緩み、価格や需給の変動が激しくなったので、企業や組織は存続のために不正行為に走った。今後も価格変動が激しいので、多くの企業や組織は危うくなって同じような不正行為を起す可能性がある。これを防ぐには生産者から最終小売りまでの流通を商品番号などによって把握するシステムや抜き打ち検査を行う独立した公的機関が必要になる。
医療機関でも存立が危うい病院が増え、コスト引き下げが広く実施されている。人件費や経費の削減と、院内感染・毒物の誤投与・医療ミス・見習い医の過労死等の事故とは関係がありそうだ。こうした悲惨な事故を防ぐためには、独立した監視機関、事故発生病院の廃業、経営専門家の院長就任といった新しい対策が必要だろう。
残念ながら経済が市場化すると、人件費や経費の削減と人の善意を信頼できないので、どうしても監視システムが必要になる。その結果監視のためのコストが増大するが、それは規制経済が生み出す非効率よりも小さいだろう。