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1月5日
高齢者が働ける社会に
若者社会に社会保障費の重圧
日本経済が弱くなった原因の一つは人口構成の高齢化だ。すでに高齢化比率(65才以上の高齢者が全人口に占める比率)は20%近くに達した。高齢者の多くは引退して年金生活を送り、頻繁に医療保険を利用している。
医療保険給付額を所得に加えると、高齢者の平均年所得は530万円に達し、30才代の働き盛りの人よりも多くなる。日本は実に高齢者にやさしい国だといえる。これから高齢人口は増加の一途を辿り、15年後には高齢化比率は25%に達する。高齢者の半分は75歳以上であり、その上高額な治療方法が次々に開発されるだろうから、老人医療費は増え続け、若者の負担はもっと重くなる。
日本の主力産業は製造業から病院・診療所・介護等の福祉産業に変わり、若者は熱心に働いても、税金や社会保障費の負担が重くなる一方なので、将来の希望と勤労意欲を失い、日本経済の成長力は一層衰えるに違いない。
その最もよい対策は高齢者が働くことだ。世の中には昔から元気な老人が多かった。長野県の小布施町は北斎館で有名だ。葛飾北斎は83才になってから江戸・小布施を何回も往復した。ミケランジェロはビエタ像を完成させるために、89才まで鑿を振るった。最近元気な老人が非常に多くなった。アメリカの経済学界ではガルブレイス、ドラッカー、サミエルソン、フリードマン等の大学者は80才代を通して活躍した。
日本では、吉野俊彦氏さん(この欄の執筆者の一人)は、経済評論家として健筆を揮われるかたわら、80才代になると森鴎外の他に永井荷風と河上肇を研究され、大型の著作を次々に発表された。商品学の権威の脇村義太郎氏は晩年日本学士院院長になられ、90才の半ばまで鎌倉から電車で通勤された。壮大なスケールの世界史観を創造した梅棹忠夫さんは70才になる頃に失明されたが、その後口述で本を三冊も出版され、地域文化賞などの選考委員長等の要職につかれ、八〇才代になっても元気に活躍しておられる。
芸術家や政治家では高齢で活躍している人が多い。朝比奈隆氏は92才でベートーベンの交響曲の全曲を指揮した。いずれの演奏会でも満員の聴衆は感動し、何時までも拍手が鳴りやまなかった。小倉遊亀さんは100才になっても絵を描き続けた。中曽根康弘、宮沢喜一の両氏は80才代半ばになっても強力な政治力を発揮している。
専門的技能を活用すべき
夏の松本駅は大きなリュックサックを背負った高齢者で溢れ、スキーは年配者のスポーツに変わり、マラソン老人が増えた。学者、芸術家、政治家、古典芸能の演者等に、80才代になっても現役で活躍している人が多いのは、同じ仕事を続け、見識を拡げ、技能を研いたためだ。サラリーマンも定年後に、それまでに鍛え上げた技能や蓄積した体験的な知恵を世の中で活用すべきだ。
スペシャリスト・サラリーマンとして、数十年間も専門的技能を研いてきた人は、高齢者になっても体力に応じて隔日で6時間ぐらいの勤務であれば、現役と同じ仕事をする能力は充分にある。また高齢社会では高齢者をお客とする仕事が増えるはずだ。営業の専門家は高齢者のお客の細かいニーズに答えられるという点では、若い社員より優れている。
高齢者は生活費がかからない上、仕事を通じて社会と接することによって新たな生き甲斐を発見できるから、わずかな給与で満足するはずだ。高齢者が働き始めれば、社会補償費を減らし、若者の負担を軽減できる。また労働力人口が増えるので、日本経済の成長力は高まる。21世紀には、日本が、高齢者が働ける社会づくりの手本になりたいものだ。