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2002年
エンロン破綻と市場経済
システムの腐敗示す事件
昨年の12月に発生したエンロンの経営破綻は、アメリカの史上最大規模だった。エンロンは次の3つの意味でアメリカのニュー・エコノミーを代表する企業として高く評価されていた。
第一に規制緩和政策に応じて、電気通信、パイプライン、発電、水道等に進出し、非効率な公共事業の効率化を意図している。第二に金融技術を駆使した経営によって急成長を遂げ、第三に正確な情報公開と順法性でも優れており、社外役員には有名なグルーグマン・プリンストン大学教授など識見と学力が優れた人が就任している。
ところが破綻後の調査によって、膨大な簿外取引が見つかった。それは超一流の会計事務所である外部監査法人のアンダーセンが粉飾を見抜けなかったか、あるいはアンダーセンがエンロンから報酬をもらっていたので、粉飾に協力していたかどちらかだ。
また格付け機関はエンロンの社債や株式を最上位に格付けしていた。アナリストはいずれもエンロンは優良企業だと判断した。その結果、エンロンの株価は98年から2001年まで急上昇を続けた。エンロンのレイ会長は経済学博士であり、アメリカ社会のエリートだったが、破綻の前に所有株を売り抜けて、損害を免れた。明らかにインサイダー取引だ。これに対してエンロン株を大量に組み込んでいた年金は大打撃を受けた。
市場経済では会社の優劣は市場で判断される。どんなに立派な仕事を行っている企業でも、株価が低ければ価値がない。多少あくどい取引をする企業でも株価が高ければ、優秀企業にランクされる可能性がある。すべてが市場で判断されるから、企業は投資家に対して経営内容を正確に開示しなければならない。そのために外部取締役が任命され、また外部監査法人が厳密に監査しているはずだ。
ところが、最優秀企業のエンロンが経営内容を粉飾し、誰もそれをチェックできなかった。その結果幹部が破綻前に株式を売り抜けることに成功し、格付け機関やアナリストの評価を真に受けていた投資家は丸損だった。この事件はアメリカの市場経済の基盤を支えている最も重要なシステムが腐敗し、機能していなかったことを示す大事件だった。それは、世界の正義と安全を守る役割を公言しているアメリカが、自国内の安全を守れず、高校では入り口で銃のチェックが行われているのと似た現象だ。
モラル崩壊を招く危険性
日本では、多くの人が規制を撤廃してアメリカのように市場経済の機能を十分に発揮させれば、日本経済は効率が良くなり、長期低迷から脱却できるはずだと考えている。私もその一人だ。しかし、市場経済にはいくつかの深刻な欠点がある。「制限なしの消費の増大」や「貧富の格差拡大」を当然だと考える習慣がつくと、節度に関する感覚が消え、モラルの崩壊を招く危険性がある。
企業は消費者のニーズに応ずるのは正義だと信じている。消費者は自由があるから、欲望に応じて麻薬のような快楽的消費財を買い、また環境破壊を考えずに消費を拡大する。人々は次第に長期的な視野で考え、計画を立てたりする意欲が消えてくる。その上にモラルの感覚が希薄になると、経理の粉飾、無責任な株価評価、インサイダー取引等が平気で行われるようになる。
アメリカの有名な経済学者のダニエル・ベルは、文化的腐敗がアメリカ経済の最大問題だと考えた。日本でも雪印事件、自治体の特定企業へ落札、先物取引を使った株価操作などモラルの低下が目立っている。市場経済化には危険な側面がある。