静岡新聞論壇

10月7日

成長著しい中国経済

所得格差と自由の制限

中国経済に対しては悲観論も楽観論もある。同じ現象を見て判断が分かれる。悲観論者は、貧富の拡大と自由の制限をあげ、中国には将来社会不安が広がるはずだという。

楽観論者はそれは中国経済の強みだと考えている。中国は経済的に見ると1つの国ではなく、発展段階が異なる国々が集合した1つの世界である。例えば長江沿岸の大都市の賃金をみると、上海を100とすれば、南京が600、重慶が500、成都は400という具合だ。成都周辺の農村では200以下だ。サービス料金や住宅費は、賃金と同じように奥地に行くほど低く、生活費も安い。

内陸部には大都会に出て稼ぎたい人が沢山いる。もし自由に任せたら、上海などは出稼ぎ者のスラムが膨張して、犯罪が増えるだろう。中国政府は、それを防ぐために、農民は就職先が確定していなければ、都市に移住できないという制度をつくった。その結果、大都市にいける労働力需要の拡大に応じて、低賃金労働者が都市に移住して働き、リストラされたら農村に戻ることになる。農村では物価が安いので、都市で稼いだお金によって、家を増築できる。中国は所得格差と自由の制限によって、さしたる混乱なく高成長を続けている。

最近大都市間はほぼ高速道路で結ばれた。ところが大都市から少し離れると、高速道路の質が悪く凸凹である。その高速道路では自転車に乗っ人や歩行者がおり、また掃除は人手である。悲観論者は中国のインフラは悪く、人々は規則を守らない。また機械化が遅れ、経済発展の基盤が欠けているという。

しかし資本不足の国は立派な道路を造る必要がない。道路建設費を節約して、経済的資源を工場建設に向け、所得を高めるべきだ。貧しい地域の高速道では、自動車がたまにしか通らないので、住民の自転車や歩行を見逃し、利用率を高めるのは当然だ。高速道の掃除によって就業機会を増やすのは悪い政策ではない。

中国は広大であるから、全国一斉に経済成長させるのは無理であるから、各地にいろいろな経済特区をつくった。最近では経済特区が大型化して、北京の中関村や蘇州の工業園区のように15キロ四方以上という巨大なハイテクパークや工業団地が造られ、世界のハイテク企業の研究所や工場が続々進出し、また国内企業が育った。家電製品、半導体、自動車等の産業が成長し、国際水準に達する製品が生産されている。

日本への”労働力輸出” 

どの工場も品質を高めるために、自動化が進められたので、雇用が思うように増えない。内陸部には膨大な数の半失業者がおり、四川省では700万人も香港等に出稼ぎに行っている。中国経済の発展とともに、内陸部の省でも海外情報が集まり、労働力輸出システムが整ってきた。省政府は海外企業の要求に応じて若年層を教育するようになった。

彼等は日本への労働力輸出を狙っている。日本には、介護、廃棄物処理、リサイクル、農水産業などで低廉な労働力需要がある。3年間働いて、100万円ぐらい貯蓄して村に帰れば、2階建ての大きな家を建てることができる。

近い将来日本は中国製品と中国人労働者で溢れそうだ。労働集約的な分野が中国人労働力によって担われればコストが低下し、自治体や企業の負担が軽くなる。もし日本の大学のレベルが向上して良質な技術者を育て、また大学ベンチャーが続出し、そうした結果、日本企業が中国では生産できないハイテク製品を開発し続ければ、日本の経済力は強力になり、高級な労働力に対する需要が増大する。中国経済の発展を受け止めるためには、相当な改革と努力が必要だ。

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