静岡新聞論壇

7月21日

公務員は専門性を高めよ

キャリア早期退職廃止

政府はキャリアー公務員の「早期退職システム」を廃止する方針だという。大賛成だ。キャリアー公務員は、50歳前後から事務次官候補数名を残して次々に退職し、同期入省者から選別された事務次官1人だけが定年の60歳近くまで務める。事務次官は省のピラミッド型の人的構成の頂点に立って行政に腕を振うのである。

そのためキャリアー公務員の平均退職年齢は若く、54歳ぐらいであるから、退職後は天下りしなければ生活が成り立たない。ところで、公務員は政策を法律に仕上げる能力や、予算を政治的にうまく配分する能力等に優れている。彼等は2~3年毎に省内のいろいろな部局への異動とか、他の省庁や国際機関等への出向等を繰り返して見識や視野を広げ、また人的ネットワークを内外に拡大して、政策の企画・立案・実施や交渉などの能力を向上させる。しかし異動が早いので、特定分野の専門家になれるわけではない。

彼等の能力は特殊であるから民間企業ではあまり役に立たない。退職して直ぐ役立つ先は特殊法人である。そこで期待される仕事は予算を増大する理由付けや予算の折衝であり、それは公務員OBに打ってつけだ。また民間企業では、例えば、建設業や商社を始めとして政府の政策や発注の仕方によって大きな影響を受ける企業が公務員OBを役員に迎えて、政策の方向に関する情報を聞き出し、また現役の高級官僚や政治的な有力者を紹介して貰う。OB達は情報提供者兼口利き屋として働くのである。

すべてのキャリアー公務員が恵まれた晩年を送るためには特殊法人を増やし、また政府の規制を多くして、民間企業が官庁に熱心に働きかけざるを得ないような状態をつくらなければならない。それだから今まで特殊法人が拡大し、規制が減らなかった。この弊害をなくすためには公務員の定年を65歳まで延長し、またすべてのキャリアー公務員が定年まで働けるようにして、一生の生活を保障することが必要だ。それとともに、多くの人は55歳ぐらいから負担が軽い仕事に変り、賃金が少しずつ減少するようにすべきだろう。

ゼネラリストは過剰に

今後特殊法人が減り、規制が緩和されると、公務員としての能力だけを身につけた人は民間企業では雇って貰えないから、低くなった賃金で定年まで働くようになる。公務員はゼネラリストになるよりも、専門分野を持ち、その分野では一流の知識・見識・企画力を身につけたスペシャリストになった方が得である。それは次官競争に敗れるという見通しがたった時、早めに大学や民間企業等に転職すれば、そこで長く働くことができるからだ。

しかし、どの官庁でもすべてのキャリアー公務員は短期間のローテーションを繰り返して、ゼネラリストとして育てると同時に、仕事に対する責任を曖昧にしている。この人事政策では公務員は専門家になれず、また業績がはっきりと認められないので、幸せとは云えない。もし多くの公務員ゼネラリストが生き甲斐のない晩年を送ったならば、優秀な若者は公務員を希望しなくなるという由々しき問題が生まれてくる。すでに大蔵省など1流官庁では若年の退職者が増えている。これからは希望すれば、専門家としてのコースを辿れるようにすべきだろう。

地方公務員にも同じような問題がある。ローテーションが早いので、専門家が育たない上に,素人集団であるから仕事が深まらない。今後、行政効率を向上させるために、業務の多くはアウトソーシングされ、また情報化されるので、専門家以外の公務員は過剰になるだろう。中央も地方も役所はローテーションを長くして専門家を育てるべきだ。

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