静岡新聞論壇

2005年 

地方経済を支える企業立地

「本社」に恵まれた静岡

地方分権の時代になり、地方が自立的に成長するためには、企業の力が必要であるが、それは外部資本の工場を誘致するだけでは達成されない。というのは、本社から離れた工場はその企業の手足であって、工場の社員や家族は工場が立地している都市より、本社のある都市に愛着をもち、やがて転勤していなくなるからだ。また、もし国内生産の縮小という方針が決った時には、地元の事情を無視して、工場閉鎖や従業員解雇が実施され、工場跡地が、かなりの間、草がぼうぼうで捨てておかれるだろう。

企業は,研究開発、新製品の企画・設計、生産技術の開発、内外市場の調査、海外工場の企画、人材の育成などの機能を備えた知識創造組織といえるが、地域経済の発展にとって重要なのは、本社、本社工場、研究所等、企業の中核組織が揃って立地していることだ。

静岡県は、沢山の国際的大企業を生み出した世界でも珍しい自治体である.幸いなことに、その大企業は、トヨタとホンタを除けば、スズキ、ヤマハ、ヤマ発を始めとして,何れもの本社が県内に置かれ、さらに大企業の多くは機械工業であるから、その周辺に多数の部品や材料メーカーが成長し,その本社や工場も県内に立地している。

こうした大企業が地元にあることは、最先端技術、国際的な事業戦略、海外工場の運営、環境保全技術などいろいろな分野で、それぞれ一流の専門知識を持った多くの技術者がそこに住み、生活していることだ。その中には、海外生活が長く、海外諸国の言葉・文化・生活に関して生きた情報を持っている人や、優れた外国人専門家や、オリンピック選手クラスのスポーツマンもいるだろう。

こうしたハイレベルの知識人群によって、直接その地域の文化水準が引き上げられるだけでなく、そうした人々との日常的な交流から知的刺激を受けて、起業を志し、第2のホンダや浜ホトを生み出す可能性がある。そうなれば雇用が拡大し、世界に誇る専門家が増え、地域は発展するはずだ。これから、超一流の技倆を持つ団塊の世代が定年を迎える。かれらの能力を伝承し、活かしたいものだ。

県民も、県内企業の成長を助けることができる。今後、銀行中心の金融から、証券投資のウエイトが高い間接金融の時代に移り、私たちの金融資産の中では、株式の比率が高くなるだろう。株式は安いときに買い、長期に所有すれば確実に有利な資産運用になる。しかし、その際、購入した銘柄の企業業績を監視し続けることが必要であるが、1人の能力では不可能だ。

投資通じ県の発展に寄与

私たちの貯蓄は、可能なら県内に本社のある企業に投資して、県の経済発展に寄与したいものだ。仮に、20名ぐらいの友人と投資クラブを創り、毎月集まり、情報交換して専ら県内企業だけに小額ずつ株式投資するとしよう.県内企業ならば、友人を通じて生きた経営情報を集めやすい。それは一種の株主会であるから、投資先企業を訪問することも可能だろう。

その際、消費財の企業に対しては、製品の品質・価格、販売店の態度、会社の評判などについて、株主としての意見を表明できる。こういう投資クラブが増えれば、県内の膨大な貯蓄が県内企業に環流するのみならず、多数の県民が企業に意見を述べ、さらに、国や自治体の産業政策について、積極的に発言するようになる。つまり、県民が県内企業の成長を支え、かつ県の経済発展に寄与できるのである。

もし、県内の大学に属している財団が投資クラブを主催すれば、大学の専門知識が県の経済発展に生かされ、産学交流の成果を挙げやすい。そうなれば、本県の工業力は愛知県、神奈川県を抜ける。

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