静岡新聞論壇

2005年 

中国反日運動の背景

日米同盟の影響

中国の抗日デモの広がりには、複雑な背景がある。まず、日米対中国の軍事対立がはっきりしてきたことだ。軍事費から推定すると、中国はロシアに次ぐ軍事大国になった。アメリカ政府はそれに不安を感じ、アジアを軍事的に極めて不安定な地域だと捉え、中国と北朝鮮を軍事的に包囲する新軍事体制を整えつつある。

兵器がIT化し、ピンポイントのミサイル攻撃が中心になったので、アメリカの対アジア軍事司令本部は、中国に最も近いアラスカに、またその前線中央司令部はインフラが充実し治安が良好な日本に、それぞれ設置されることになり、日米一体の強固な防衛システムが出来上がりつつある。

そのためか、日本外交姿勢は次第に強気になり、イラクに出兵し、北朝鮮を追いつめ、竹島、尖閣列島、東シナ海の海底資源等の領有権を堂々と主張している。また北朝鮮の不審船を撃沈し、領海を侵犯した中国の原潜を追跡し、小泉さんは靖国神社に参拝している。自衛隊は中国の台湾占領を阻止するためには、アメリカ軍に協力するつもりであり、世論は憲法改正を支持している。中国にとっては、強化された日米軍事同盟が実に不気味だろう。

つぎに、中国では、新政権は国民の支持を得るために、大規模な経済成長政策を実施して、景気が過熱するという傾向があり、それが不安要因を生んでいる。胡錦濤政権の2年目にあたる昨年以降、景気過熱によって、電力や水の不足が深刻になり、無理な増産によって炭鉱事故が頻発し、昨年には6000人も死亡した。また、全土にわたって乱開発が進み、優良な農地が過剰な工場団地や住宅団地に変わった。

中国は短期間で世界の工場になり、沿岸地域では、数千万人の大富裕層と約1億人の中産階級が生まれたが、10億人を越える貧しい人達は取り残された。中国で繁栄しているのは、日本企業を始めとする外資であって、外資に勤める中国人が豊かになり、外資との競争に敗れた国営企業の従業員は職を失い、貧しくなった。

政府は、今後、景気過熱を抑制しなければならないが、それに伴って、国営企業の倒産が増え、工業団地や住宅団地を造成した多くの地方政府は財政危機に落ち込むだろう。こうした経済危機を乗り切るためには、外敵が生み出す緊張状態が必要である。日米による軍事的包囲網の構築は外敵の出現である。反米運動は相手が強いので危険であるが、抗日運動は、程よい緊張感と不満のガス抜きには、最も無難な方法である。

「文化的属国」の日本

中国では経済成長とともに中華思想が強まった。日本人は道徳の論理的基礎を儒教に置き、基礎教養として中国古典や漢詩を学び、また日本語は漢字なしには成り立たない。中国からは、日本が文化的属国にみえるから、領土や排他的経済水域等の問題でも属国扱しがちである。日本が中国と並んで国連の常任理事国を希望するのは、とんでもない話だ。

では、日本はどうすべきか。日本はまず中国に対して対等な立場に立って抗日デモに抗議し、教科書問題では、中国の反日的な教科書と対比しつつ堂々と議論すべきだ。しかし譲るべきところは譲り、靖国神社からA級戦犯の排除は、その例にならう。

今や、日本の企業は、中国経済と深く結びついている。日本企業は中国人を現地子会社だけではなく、本社でも経営陣に加え、また、研究所・大学では中国人の研究者・教授を多く採用して、日本ファンの中国人を増やすべきだろう。長期的に見ると、若い人達がお互いに親友になることも必要だ。中国の中・高生が日本へ修学旅行に来て、日本の中・高生と合宿し討論するのは、そのきっかけを作る1例である。

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