静岡新聞論壇

2005年 

経済発展の地域格差拡大

雇用増え、賃金が上昇

景気の先行きが明るくなった。企業では人員や設備についての過剰感が消え、新規採用を増やし、また設備投資を拡大している。東京中心部の地価が上昇し始め、投資的目的による不動産取得が目立つようになった。

景気上昇の主な原因は、企業のリストラが終了し、生産コストが大幅に低下したことだ。企業は数年前まで不採算部門を閉鎖し、従業員数を減らしただけでなく、正社員を賃金が低いパートや契約社員に変え、また古い機械を辛抱強く使って設備投資を削った。そうした結果、企業収益は2003年ごろから、年率25%ぐらいの伸びを続け、株価が上昇トレンドを辿っている。

ところで、現在、IT技術が目覚ましく進歩しているので、企業は、競争力を高めるために、古くなった設備を新鋭設備に置き換えることが必要だ。収益が増加し、膨大な資金が企業の内部に蓄積されたので、企業には、自己資本だけで巨額な設備装置を建設できる力が備わった。

それらは自動化された設備装置であって、労働力をあまり使わないので、製品の品質とコストとを総合的に捉えると、中国の工場に負けない。また、技術進歩が早いハイテク製品や、流行が目まぐるしく変わる消費財では、周辺に系列の材料・部品・加工メーカーが立地している国内工場の方が、海外工場よりも遙かに機動的な対応が可能だ。

つまり、工場の新設・拡充は、海外から国内に戻ってきた。そのため今年度における製造業の設備投資は、10%の増加になりそうだ。

また2007年から、団塊の世代の熟練社員が続々と定年退職するので、新卒者の採用を増やして、熟練者を育てなければならない。 

どの産業でも、技術水準が向上したので、熟練者の優れた技能が必要だ。首都圏、東海地方、九州の北部では、新卒者に対する求人が殺到し、予定していた人員を採用できなかった企業が少なくない。

非製造業では、製造業よりも設備投資が伸びている。例えば、電力業における古くなった多くの発電所の更新投資があり、福祉産業では、介護施設の投資が増大している。大都市や中核都市では不動産業の投資が活発だ。全体として、雇用が増え、賃金が上昇し始めた。

北海道などで不況続く

振り返ると、昨年の中頃には輸出が鈍り、上昇の勢いが衰えたが、今年に入ると輸出が回復し、また内需が底堅くなった。8月には、政府と日銀は、それぞれ景気が「踊り場」を脱却したと判断し、また多くの民間エコノミストは今後1年ぐらい景気上昇が続くと予想している。景気は2002年1月の底から現在まで、実に44ヶ月の拡大が続き、遂に戦後3番目の長い上昇になった。

現在の景気浮揚力は、経済成長率でみると2~3%であるから、成長期の日本経済と較べると問題なく弱い。その上、地域格差が大きくなり、首都圏、北関東、東海、九州北部では活況であって人手不足であるが、北海道、東北の北部、沖縄を始めとして、公共事業依存型経済の地域では、深刻な不況が続いている。

確かに、小泉内閣によるゼロ金利、銀行に対する不良資産の強制的処理、規制緩和といた経済政策が成功し、日本経済に活力が戻ったと言えよう。ところが、民主党は小泉内閣の経済政策を失敗だったと批判し、敗北した。しかし、所得と経済発展の地域格差拡大という難しい問題が残っており、それは民主党が新しい総合的政策を提案すべき重要な分野の一つである。

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