静岡新聞論壇

2005年 

企業の高収益とフリーター

2極分化が進む職場

企業は高収益を上げている。2004年度の上場企業の利益総額は約22兆円に達し、昨年に続いて史上最高である。高収益の要因には、アメリカや中国への輸出が伸び、現地生産が拡大したことがあげられるが、最も大きな要因は企業が思い切ったリストラを実施して、賃金コストを大幅に引き下げたことだ。

まず不採算部門が閉鎖され、同時に生産、販売、物流、本部、何れの分野でも、一段とIT化され、人減らしが進んだ。それは主として新規採用の削減によって行われたので、就職できなかった膨大な数の若者がパートやアルバイトで生活するフリーターになり、その数は累増の一途を辿り、今や400万人を越えた。それは2年半分の新規労働力数に当たる大きさだ。

企業は、コストを考えると、派遣社員やパートのような非正社員をできるだけ増やしたい。それは、正社員には、給与の他に、年金や退職金の積み立て、健康保険料の負担等のコストがかかる上に、自由に解雇できないからだ。ところで、IT化とともに、仕事の内容は専門的な技術を必要とする分野と、単純な作業の分野に分かれた。例えば、製造業では仕事の内容は商品開発や生産システムの開発などの専門分野と、自動機械装置の周辺で材料の搬入、製品の運搬などの単純作業の両極端になる。

企業は専門的な仕事も派遣社員に頼るようになり、人材派遣会社は、営業、金融、ソフトの作成、語学、秘書等の専門職も派遣している。私立大学でも非正職員を巧く利用している。事務は入学試験や学期末に忙しく、夏休みはまるで暇であるから、正職員を夏休みに必要な人数まで減らし、忙しい時期を遣業社員でカバーするのだ。また非常勤講師を増やせば、個室が要らず、年金・退職金・健康保険等の負担がかからない。

工場現場やサービス業・大型小売店等では、派遣社員やパートが仕事の主体を担っている。外国人労働者も多い。若年層には失業が多いので、単純作業であっても、派遣社員やパートの希望者は多い。

こうした結果、職場には、①、経済的に将来が安定しているが、能力給が導入され、長時間労働を強いられている正社員、②、期間を区切って比較的いい賃金で働く専門職の派遣社員、③,期間を区切って低賃金で単純労働を繰り返している契約社員やパート等が働いている。同じ職場で同じ年齢で、正社員と③の非正社員では、所得が3倍近くも違うといった2極分化が進んでいる。

特殊技能身に付かず

この他に、就職が困難であるから、働く気力を失った50万人のニートが存在している。20才代から30才代に掛けて、陰鬱な犯罪を犯す人が増えたのも、こうした雇用状況と無関係ではないだろう。 

企業は、バブル経済崩壊後の長期デフレ経済のなかで、見事に立ち直り、経営体質を強化した。しかしつぎのような深刻な問題を残した。第1に、特殊な技能が身に付かず、一生、フリターとして貧困に苦しむであろう膨大な人達を生んだ。第2にベテラン社員の層が薄くなった。正社員は学校を卒業して入社後、ずっと現場でオン・ザ・ジョブ・トレーニングを受けて、「異常」の発生に直ぐ気づくベテラン社員に育つ。しかしリストラの結果、「異常」に気づく社員が減り、大企業でも大きな事故が頻発し、テレビ・カメラの放列の中で、社長が平身低頭する姿が毎週のように放映される。第3に賃金を減らした結果、個人消費が低迷し、日本経済の内生的な成長力が弱まった。

高収益企業は買収を恐れて増資しているが、正社員を増やし、賃金水準を引き上げて、消費を刺激することが遙かに重要である。

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