静岡新聞論壇

2005年 

道路公団の不正な慣行

「組織のため」と談合正当化

国有企業では、不正行為が長年続くと、職員や監督官庁がそれを良い慣行だと信じ、それを正当化している例が少なくない。最近、道路公団の架橋工事を巡る談合が発覚したが、道路公団の責任者はつぎのような内容の弁解をした。

「安全な架橋を造るためには、先ず、技術レベルが高い企業を選んで、指名入札制にすべきだ。指名入札制の下でも、競争が激化すると、企業が経営危機に落ち込み、技術水準が低下する可能性がある。公団OBの働きによって、しっかりした談合組織を造り、企業の利益を保障するのは悪いことではない。これによって、安全な道路や架橋が造られるからだ。」

また、公団OBは、現役職員から入札予定価格を聞き出し、談合組織を纏めるといった仕事を始め、いろいろな方法によって、企業に利益を与えた結果、継続的な大量天下りが可能になった。今回摘発された談合に関連した架橋メーカーには、国交省と道路公団から、それぞれ198名、43名も天下りしている。彼等が談合のまとめ役等として働くのは、個人の利益ではなく、国交省や公団の職員が定年後に安定した生活を送れるようにするためであり、組織のために行っているのだという。

ところで、道路工事費は、当然のことながら、談合によってつり上げられる。道路公団の年間・道路工事費は約一兆円であり、仮に談合が広く行われ、工事費が10%吊り上げられたとすれば、年間で1000億円以上の税金が、公団を通じて、関連企業にばらまかれたことになる。

専門家の調査では、落札価格が低い企業に発注すると、道路の品質が低下するという道路公団の説は、統計的に証明不可能であり、落札価格と道路の品質とは関係がないという結論である。幾つかの自治体では、指名入札制度から公開入札制度に変えた結果、道路工事費は10%以上も低下した。

かっての道路公団は、無駄な道路をつくり続け、赤字が累積したが、運転資金や設備資金は郵貯・簡保の資金によって供給されたので、経営上の問題は何ら発生しなかった。郵貯・簡保は、赤字公団への融資によって不良資産が累増しても、国有金融機関であるから、赤字の付けを最後には税金に廻すことができるから、経営的な心配は全くなかった。

民営化へ厳しい監視必要

中国でも、製造業就業者の50%を占めている国有企業が腐敗の源になっている。国有企業は、生産性が低い上に、退職した従業員の生活まで保障しているから、赤字が続いているが、国有銀行が設備資金や運転資金を供給するので、倒産を免れている。政府が国有企業の幹部を任命し、生産目標を設定しているので、誰も経営の責任をとる人がいない。国有企業の幹部の生活は豊かであり、従業員も相対的に恵まれた生活だ。その付けは、最終的には税金に廻され、将来の国民負担になるが、政権は、人口が多い国有企業関係者の支持を得ているから、さし当たって安定している。中国の国有企業は、道路公団や郵貯を始めとする日本の特殊法人とそっくりだ。

ところで、中国では、これから徐々に国有企業を民営化する計画だ。中国人のエコノミストには、その時、官僚が、奸智を働かせて大量の株式をタダ同然で手に入れ、経営権を握る恐れを指摘する人がいる。ロシアでは、民営化の時、官僚が国有企業の株式を横取りして、オーナーになった例が余りにも多い。

日本でも、道路公団や郵政が民営化される時、国家が大量の株式を保有し、民営化後も官僚の強い権限が残りそうだ。反・民営化陣営には、その権限を利用して、関連企業や関係する政治家にメリットを与える仕組みを残したいと考えている人が少なくない。ロシアや中国のような「腐敗国家」に落ち込まないためにも、厳しい監視が必要だ。

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