静岡新聞論壇

2005年 

メディア革命を狙うライブドア

プロ野球から金融まで

ライブドアーは不気味な存在だ。かってはプロ野球とインターネットの融合を狙った。その内容を簡単に言えば次のようになるだろう。インターネットで野球観戦すれば、何時でも選手に関するデーターにアクセスできる。球場に多くのテレビカメラ配置されているので、好みのアングルからネット観戦できる。ブルペンの投球練習も見れる。観戦者による投手交代等の判断がネット上で集計され、試合後、監督からそれらに関する感想を聞ける。つまり、野球を深く観戦できる。

ライブドアーはプロ野球参入に失敗したが、今度は、メディアとの融合を狙っている。同社のサイトには多様な最新情報が掲載されており、それらのうち、ヒット数が多い情報を新聞やラジオで流そうと言うわけだ。現在の新聞は、集めた情報を取捨選択し、新聞社の見識によって見出しの付け方や大きさを決め情報にアクセントを付ける。その上に解説記事を書き、「社会の木鐸」としての役割を担っている。ライブドアー流の新聞は、それとは正反対であって、大衆の関心ある情報をサイト上のヒット数だけで判断して新聞やラジオをつくるのである。この新聞は価値判断が一切入らない単純な流通媒体である。

ライブドアーは、つぎに、収益性が高く、最新のIT技術を最も利用しやすい金融取引を狙っている。ネット情報の精度が向上すれば、ネット証券、ネットバンク、ネット保険等の分野で、競争力が確実に強くなる。IT、メディア、金融取引の融合こそ、堀江さんの究極の目標だ。

そうしたビジョンに立って、ニッポン放送に対する強引な買収に取りかかった。まずアメリカの投資銀行から、買収資金としてライブドアーの売上高の2.5倍に当たる800億円を調達した。経営の常識から言えば、「投機的」な行動である。それに応じた収益を挙げるためには、買収後、ライブドアーのビジョンに沿うようにニッポン放送の大改革が必要だ。今まで、堀江さんが買収した企業では、従業員の大部分が改革に耐えきれず辞めていった。今度も、優秀な従業員は続々と辞めるかもしれない。

企業買収は悪いことではない。企業は生産を拡大したり、新分野に進出しようとする時には、設備投資によるのか、企業買収によるのかを考え、安く済む方を選択するのだ。企業買収の名人は日本電産の永守社長である。約30年前に起業して以来、23社を買収して、IT、家電、自動車等と関連する小型精密モーターをつくる従業員数・7万人の大企業に成長した。買収に際して、ほとんどすべての経営者を残し、また従業員の首切りをしなかった。高い技術を蓄積しているが、運悪く経営不振になった企業を安く買収し、経営を少しずつ変え、研究者や従業員の意欲を掘り起こした。ライブドアーとは対象的である。

多くの財界人には不評

堀江社長は六本木ヒルズ内の豪華マンションに住み、競馬の馬まで持っている。早朝から深夜までラフな服装で働き、徹底した成果主義の人事システムによって、平均年齢29才の若い従業員の勤労意欲を刺激している。

年輩の経営者からみると、堀江さんは既存の価値体系や秩序の破壊者であり不愉快な存在だ。メディア業界では、彼はメディアをインターネットに従属させるため、まず卑劣な方法でニッポン放送の買収を試みたので、ニッポン放送も卑怯な手段によって買収阻止を試みるのは当然だと思っている。

多くの財界人は、還暦の永守さんを高く評価しており、32才の堀江さんは不評である。彼が提起した「ネット革命の問題」は相手にされず、「不当な企業買収の問題」だけが批判されている。メディアは「企業買収競争」として面白く報道している。

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