静岡新聞論壇

2005年 

建築確認制度と国交省

安全を担保できず大問題に

マンションなどの耐震設計偽造問題では、民間検査機関が、姉歯氏による多数の偽造を発見できなかった。

最大手の検査機構は日本ERIであって、従業員数が500人の上場企業であるが、この会社も11件を見逃している。国交省は先ず日本ERIを立ち入り検査し、ついで50の検査機関を検査するという。もし、偽造を故意に見逃していたならば、国交省の民間検査機関に対する監視が全く機能していないことになる。

ところが、逆に、民間検査機関が能力的に偽造を見抜けなかったという結論が出たら、事態はもっと深刻だ。国交省は検査能力がない会社を、委細構わず、検査機関に認定したことになる。また自治体の検査組織も、偽造設計に建設確認を与えていた。

その理由としては、1、検査のマニュアルが役に立たない 2、検査の手抜きが常態化していた 3、検査を担当する人が現場経験を欠いており能力不足だ。などの諸点が考えられる つまり、建設確認制度では、建物の安全を担保できないのだ。これは明らかに担当大臣が辞職すべき程の大問題だ。

国交省は何故こんな大きなミスに気が付かなかったのか。それは官庁の旧い体質と関係がある。かっての中央官庁の重要な仕事は大型の新政策を実施することだった。それが大きな成果を生み出すと、その官庁の評価が高まり、予算が増え、権限が拡大し、天下り先が膨張したものだ。日本経済の高成長期には、多くの新政策が成功し、官庁の権限が増し、役人は憧れの職業だった。

ところが、低成長下では、官庁の政策の失敗が目立ち、予算が減り、組織が圧縮され、天下り先が激減した。例えば、大蔵省は、バブル経済、デフレ経済、銀行危機、財政赤字等失政の連続だったので財務省に変わり、金融監督行政が分離されかなり縮小した。これから政府系金融機関が統廃合され、天下りポストが激減するだろう。国交省でも、道路行政が失敗したので、道路公団が民営化され、道路特定財源が一般会計に組み入れられ、予算と権限が激減しつつある。最近、学生の間では、官庁の人気が低下している。

官庁のもう1つの仕事は、市場の監視であり、低成長・市場経済下では、その重要性が高まり、花形行政になるはずだ。例えば、大蔵省から分離した金融監督庁は、銀行に対して不良資産処理を強要して、また三和銀行に決算の変更を要求し、三菱東京銀行への合併に導き、銀行の経営不安を解消するという大きな仕事をやり遂げ、評価を高めた。

市場監視の重要性気付かず

一方、国交省の幹部の主たる関心は、権限や予算の縮小傾向と戦うために、高速道路やダムの重要性を訴えたり、道路族議員と戦略を練ったりする旧いタイプの仕事に向けられ、市場の監視が重要な仕事になったことに気づかなかったらしい。

建築確認は、耐震構造が脆弱な建造物を取引から排除するという重要な市場の仕事である。阪神大地震では、耐震構造がしっかりした建物がもっと多ければ、死傷者は激減していたはずだ。国交省は、建築確認を効率化するために、民間企業を利用することを決めた。この考え方は素晴らしかったが、実務やアフターケアーが伴わなかった。

市場の監視には、まずどのような市場のルールや監視システムをつくるかというやり甲斐のある仕事である。監視の人材を育てるためには、民間企業との人事交流を深め、現場で働き、経験を積むことが必要だ。その経験が偽装図面を一見して見破る力を生むそうだ。そうした結果、安全な建築物だけが取引されるようになれば、国交省の評価は高まり、バタバタしなくても、自然に権限が強まっていくものだ。

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