静岡新聞論壇

2005年 

中国経済の発展と「反日」

都市と農村、広がる格差

中国経済は、今や世界の工場になり、輸出入総額は日本を超した。遅れた国が先行する国に追いついてくると、自信を強め、ナショナリズムが高まり、反日運動の盛り上がりになる。中国はそういう時期に達したようだ。

確かに、中国の沿岸地方の大都市では、豪華な事務所ビルやホテル、大型マンションの群れ、華やかなデパートやスーパー、ファッショナブルな若い人の服装をみると、経済の実力が、日本に接近したように思われる。

中国経済の成長をリードしているのは外資企業であり、工業生産額の30%、輸出の90%は外資企業によるものだ。ところで、中国人は教育水準が高く「真似」が巧い。「学ぶ」は「真似ぶ」であって、「真似」こそ外国技術を吸収する基礎技能だ。中国に進出した日系企業の中には、1万人近い従業員に対して、日本人がたった1名という企業もある。それは中国人従業員が生産技術を吸収した結果である。

外資企業で技術を習得した人の中には、独立したり、現地企業に引き抜かれたりして、模造品を生産している人が多い。その品質は本物より劣るが、価格が数分の1である。その工場で働いていた人が新たに独立して、模造品の模造品をつくると、品質はもっと悪いが、価格は10分に1以下になる。

多様な模造品の生産が活発であり、それによって、中国経済は発展した。労働者は技能に応じた賃金で働き、消費者は所得に応じた品質の商品を買っている。こうして、中国は豊になったが、次の3つの深刻な問題がある。

中国経済の成長を支えているのは、農村からの貧しい出稼ぎ労働者だ。中国で工業が最も発達しているのは山東省であり、この省を構成する19の行政ブロックの間では、10倍以上の所得格差があり、最貧ブロックの平均年間所得はたった4万5000円だ。貧しい西部の省には年間所得1万円にも達しない人がごろごろいる。

彼等が低賃金で大都市へ働きに出ると、そこでは年所得500万円を超える金持ち達が、豪華なマンションに住み、豊かな生活を送っている。中国経済と都市住民は、農村からの出稼ぎ者を食い物にして成長し、豊かになったと言える。こうした状態は長続きしないだろう。

危ういナショナリズム高揚

第2の問題は汚職の広がりだ。市場経済制度と独裁的権力が併存すると、必ず汚職が発生する。例えば、省や市の幹部は農民から土地を取り上げて工業団地や道路を建設し、その工事を妻・兄弟・子弟が経営する企業に発注する。国営企業の幹部達は、銀行から借りた資金を私物化して、返そうとしない。

第3は信用の崩壊であり、企業は取引先を信用せず、専ら現金決済である。人々は交通事故で出血多量の状態でも、前金を払わなければ、入院や手術を拒否されることが多い。 中国は、共産党政権によって、儒教のモラルが破壊され、文化大革命を通して人間に対する不信感が強まり、その後の市場経済化の過程で金がすべてだという考え方が広まった。

モラルや信用が喪失した時、秩序を維持する有効な手段は、国民の一体感を強めるナショナリズムの高揚である。

ところで、日本でも10数年前から市場経済国家に変わる過程で、官界、政界では様々な汚職事件が発生した。最近では、マンションの耐震構造計算の偽造という深刻な事件が発生し、同じような偽造が多いだろうという不安が広がっている。

もし、政府が中国との政治的対立が深まっている時、何とも情けないと、反中ナショナリズムを刺激して、道徳的堕落を防ごうとしたならば、中国政府も同じようなことを企んでいるから、大変に危険な事態になる。

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