静岡新聞論壇

2004年 

輸出主導の好景気に限界

米中の高度成長でバブル化

最近におけるマクロの経済数値を見ると、景気が実に好調である。10~12月期の実質経済成長率は7%だった。製造業では、1月には生産が年率5%も伸びたが、出荷がもっと増加したので、製品在庫が減少した。もっと生産が拡大するだろう。企業はリストラが進み、銀行借り入れが減少した。その上工場の操業度が上昇したので、利益は驚くほど増加した。IT関連産業を始めとして多くの産業で、設備投資が増加している。

景気は輸出にリードされて好調になった。その背景には、世界経済のバブル化があるように思われる。国際商品の異常に値上がりし、原油価格は1年前には、1バーレル当たり20ドル以下だったが、今や40ドル近くにまで上昇した。鉄鋼製品には、1年間で価格が2倍になり、15年前のバブル経済期の価格に戻ったものもある。

海運の運賃も1年間で2倍以上になった。それは国際的な荷動きが激しいためだ。タンカーや専用船等、船舶が不足になり、船会社は傭船したくても、船がないという状態だ。当然、傭船料が急上昇しており、造船会社は数年先まで受注で一杯だ。受注価格は毎月急上昇し、建造中にその船が転売されることが多い。転売して差益を抜くのである。

国際商品がバブルの状況になったのは、中国とアメリカの経済が好調であるからだ。中国経済の高度成長は目を見張るものがあり、短期間で世界の工場になった。中国では、依然として、設備投資も住宅投資も二桁の伸びだ。その根本的理由は、中国経済の潜在成長力にあるが、それを実現させたのは昨年までの金融緩和にあり、豊富な資金が中国各地に巨大な工業団地の建設、大都市郊外における林のような高層マンション群の建設に投入された。上海では、日本のバブル経済のように超高級マンションが続々建設された。

アメリカ経済も好調であって、経済成長率は7~9月期が8%、10~12月期が4%だった。それを支えたのは、大幅な減税と日本政府のドル買いだった。日本政府は円高を阻止するため、ドル買いを続け、昨年にはアメリカの新発国債の半分近くを購入した。アメリカ経済は、巨額な財政赤字と貿易赤字を抱えているにも拘わらず、日本からの資金供給のお陰で、金融が緩和し、好景気が続いている。中国や日本の対米輸出が増加の一途だ。

IT家電の内需がポイント

中国とアメリカの経済が高成長を続けた結果、世界市場では基礎資材やエネルギーの需要が膨張した。世界の豊富な資金が物価上昇を見込んで、投機的目的で買い急いだので、基礎資材、エネルギー、不動産等の価格が暴騰したといえる。

中国政府は、不動産投機の過熱を抑えるために、不動産融資の総量規制を始めた。間もなく、工場団地や住宅に売れ残りが発生するはずだ。不動産価格は高くなり過ぎたので、暴落する恐れがある。

アメリカ政府は、大統領選挙が終わると、減税政策を改め、財政・貿易の双子の赤字を抑えにかかるだろう。それはつぎのような事情があるからだ。まず、日本政府は大規模なドル買いを続けられない。日本政府はアメリカの国債を多く持ちすぎており、ドル安が進んだり、アメリカの金利が上昇したりすれば、すぐ20兆円近い評価損が発生する。

アメリカにとっては、日本がアメリカの国債残高の15%も所有しているので、日本に対する外交的立場が弱くなるという問題がある。

こうしてみると、輸出主導の景気の上昇は間もなく止まるだろう。IT家電の内需がそれをカバーできるかどうかが、今後の景気のポイントである。

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