静岡新聞論壇

2004年 

経済活動と地域格差

雇用高水準の東海地域

経済活動を都道府県別に見ると、格差が非常に拡大し、労働力不足に悩んでいる県があれば、失業に苦しんでいる県もある。労働需給状況を最も端的に示しているのは有効求人倍率である。本年5月の実績ををみると、愛知県では、求職者100人に対して求人が132人もあるのに対して、青森県では32人の求人しかない。あまりに大きな差と云えよう。

現在の景気上昇は、産業別に見ると、自動車とデジタル家電が担っており、それらの産業が立地している県で雇用が拡大している。なかでも、巨大産業である自動車が大きな影響を与えている。

愛知県、三重県北部、静岡県西部、岐阜県南部は、トヨタ、スズキ、ホンダ等の工場や部品企業が集中してしている。4輪車だけではなく、2輪車の工場も多い。また、関連産業として、多様な部品企業の他に、工作機械、産業機械、特殊鋼等の大企業や中堅企業が立地している。ここは、世界的に見て、最も規模が大きく、かつ技術水準が高い自動車工業地帯であり、雇用が増加している。

デジタル家電は、大都市周辺で発達しているが、地方では、三重県北部における成長が目立っている。亀山市では、シャープの液晶テレビの大型工場や、素材をつくる大型工場が建設されている。また、海岸部では東芝や富士通の大型半導体工場が建設される予定だ。間もなく、常滑沖に空港が完成し、海外との物流効率が向上すると、この地方は、デジタル家電の大産地になるに違いない。そうした結果、三重県は愛知県とほぼ同じレベルで労働力が逼迫しているが、静岡県では、東部を加えると、残念ながら、やや求人不足になる。

ところで、地域経済における製造業の意味には、そこに静岡県のように本社が存在する場合と、三重県のように単なる出先工場だけが立地した場合ではかなり異なる。本社には、企画、宣伝、研究開発、部品企業との取引、従業員訓練等についての基本的な戦略を決定する機能や、海外工場や子会社の統括機能が集中している。本社には、色々な分野の専門家が揃っており、また多くの大企業は半分近くを海外生産しているので、海外各地の事情に通じている人が多く、外国人の訪問客が絶えない。それらの機能は、東京に集中している経済機能とほぼ同じといえる。

本社立地の好条件生かせ

自動車工業では、大企業の本社近くに部品企業の本社が立地し、技術の摺り合わせが行われ、新型モデルが開発されている。また、東海地域が、燃料電池、自動運転システム、リサイクル等の先端技術で、世界をリードしている。

出先の工場には、こうした総合的な機能がない。遠くにある本社の指示にしたがって動き、工場幹部は単身赴任が多く、地元には馴染まない。突然に工場が閉鎖されることもある。化学工業や薬品工業でしばしば見られるように、生産活動が工場の内部で完結する場合には、地域経済に対する波及効果はゼロに近い。

幸い、静岡県は、多数の天才的企業家を生んだので、愛知県と並んで、企業の本社が多い県であり、大企業の本社には、研究開発、需要・市場・経営の動向などについて、国際的なスケールの情報が豊富に蓄積されている。海外諸国との人的ネットは広く深い。

浜松のように世界的なハイテク企業の本社が沢山立地している都市には、是非とも、国際的一流大学、統一された美しい都市景観、優れた学者・研究者・文化人が集う幾つかのクラブ組織が欲しい。クラブのメンバーは、多くのハイテクベンチャー企業を生み出すだろう。その近くに、大型ジェットが離発着できる空港があれば、ハイテク産業の国際的なセンターになり、静岡県の発展に弾みが付くに違いない。

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