静岡新聞論壇

2004年 

緊密化すべき日タイ関係

自動車の生産拠点

東南アジアにおける製造業の中心はタイである。特に、自動車工業は目覚ましい発展を遂げ、2003年には前年に較べて30%も増加して80万台近くなった。輸出は1996年頃には1万台を僅かに超える水準だったが、今年は30万台になりそうだ。主要な輸出先国は、日本、ASEAN、アメリカであり、タイは東南アジアにおける自動車の生産拠点といえる。

2輪車の生産は300万台を超え、100万台が輸出されている。また、コンピューター部品やICの生産が伸び、中国、香港、マレーシア等に輸出されている。

タイの自動車工業の強みは、1000社を超える、技術レベルが高い部品メーカーが存在していることだ。日系企業のシェアは自動車生産と主要部品生産ともに90%に達している。東南アジア諸国では、自動車や2輪車の組立工業が成長しつつあるが、重要な部品はタイから輸出される場合が多い。タイはASEANのデトロイトといわれるようになった。

タイで自動車工業が発達したのは、政治が安定し、かつ日系企業が過去50年近い繊維産業を始めとして、いろいろな投資を積み重ね、深い信頼関係を築いているからだ。

タイでは、19世紀中頃から、政府がリードして、国王、仏教、タイ語を軸とした民族意識を浸透させることに成功した。中国系タイ人もタイに同化し、タイ語とタイ人風の名前を使っている。社会が安定しているから、アジアでは日本企業の進出の歴史が最も古い。

これに対して、マレーシアでは多数派のマレー系人が、中国系とインド系を政治的に抑えて、バランスを保っているが、彼等はモスレム、道教・儒教、ヒンドゥーと異なる宗教と風習を維持しており、社会不安の種が消えない。

モスレム国家だったフィリピンは、スペインとアメリカが植民地支配した時、キリスト教が布教され、かつ大地主制度がずっと維持されてきた。そのため、貧富の差が大きく、また、ミンダナオ島の山岳部を始め、モスレムの私兵が支配している地域が少なくない。インドネシアは、やっと近代国家になろうとしている段階にあり、民族対立が激しい地域があり、またイスラム原理主義者の活動がある。ベトナムはこれから発達する国だ。カンボジャやラオスは貧しすぎる。タイが投資に最も適した国だ。

経済的リスク分散

タイの製造業では、日系企業の設備投資が、毎年、民間設備投資の約半分を占めている。日系企業の総従業員は40万人近く、それは製造業における総雇用数の約8%に当たる。タイは、工場の中で最も日本語が通用する国だ。ここ数年間、地元に中小企業の成長が目立っている。

最近、日本の企業が目覚ましいスピードで中国に工場進出し、投資累計額をみると、遂にタイを抜いた。しかし、中国では、現在、多くの産業で設備が過剰気味であり、最終消費財である家電の価格は下がってきた。間もなく、鉄鋼等の基礎資材の仮需要が消滅して、中国経済は調整期に入りそうだ。また、過去10数年間にわたって、厳しい反日教育が実施されたので、各地で反日運動が発生しており、投資リスクが増えてきた。

多くの自動車企業はアジアの生産拠点を中国とタイに置き、分散投資している。東南アジア諸国には5億人が生活し、潜在的なマーケットは巨大である。日本は中国経済との関係が深まれば深まるほど、タイを中心とした東南アジア経済との関係を一層緊密にすべきだろう。それが政治的、経済的なリスク分散になるはずだ。タイとFTA協定を結び、日タイ関係を一段と緊密化すべきだろう。

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