静岡新聞論壇

2004年 

公共放送の使命忘れたNHK

いくつもの不正が表面化

日本の社会や経済を支える組織が緩んでいる。最近の事件をみても、警察は実績づくりのためにウソの捜査書類をつくり、関西電力の美浜原子力発電所は点検ミスで爆発事故を起こした。NHKの例外ではなかった。

NHKの番組製作のチーフ・プロデューサーが、イベント企画会社に不正支出して、約1000万円近くのバックマージンを取っていたことが発覚した。次いで、編成局の空出張、ソウル支局の不正などの事件が幾つも表面化した。海老沢会長が国会に参考人として召喚されたが、NHKはそれを放映しなかった。

NHKには、NHKスペシャルやロボットコンテストなど、優れた番組が少なくないが、最近の番組には、公共放送として相応しくな番組がある。幾つかの例を挙げてみよう。まず、5つのチャンネルのうち、2つのチャンネルが同じメジャーリーグの試合を毎日のように放映している。日本のプロ野球の衰退に一役買っているようだ。

海外の史跡巡り、美術館巡り、少数民族巡りなど、紀行番組が多いのは好感が持てる。ところが、必ず、ガイド役と称して専門知識が乏しいタレントが加わり、「素晴らしい」とか「来てよかった」とか、無内容な発言を繰り返し、グルメ紀行では「美味しい」というだけだ。折角、巨額な費用を掛けた紀行番組が台無しである。

夏祭りや花火大会の放映でも、タレントとアナウンサーが素人談義を繰り返し、肝心のお祭りや花火の場面がそれだけ少なくなり、情緒も消えてしまう。どの紀行番組も同じパターンになるのは、多分、下請けプロダクションが、NHKの編集員の顔色を伺いながら、無難に作り上げようとするからだろう。視聴率を意識せずに、優れた番組をつくるという公共放送の使命が忘れられている。

オリンピック番組にも問題があった。NHKは、公共放送であるから、できるだけ多くの競技を放映すべきだった。しかし、日本選手がメタルを取った試合ばかりを何回も放映した。負けてしょげている選手に対して、アナウンサーが長々とインタービューするという気の毒な場面が何回もあった。

視聴料徴収の根拠希薄

体操やシンクロナイズド・スイミングのような採点による団体競技では、解説者とアナウンサーが専ら日本選手の演技を褒め、外国人選手には、一寸したミスを直ぐ指摘するので、採点の結果をみると、日本選手に不利な判定が下ったように思われるのである。我々日本人の僻み根性と排外感情が煽られる。

NHKは自然環境に対する関心を高めるために、満潮・干潮や日の出・日の入りの時刻、月の満干の状態など、自然に関する基本的な情報を前日の夜に知らせるべきだろう。ところが、経済情報が優遇され、株価や為替レートだけではなく、BSではエコノミストによる翌週の株価や為替レートの予想を報道している。市場経済化の傾向に悪乗りしているといえよう。全体として、NHKは民放に似てきたので、視聴料徴収の根拠が希薄になってきた。

ジャーナリズムでは、トップの政治力が強過ぎると、職員の意識が歪み、報道の質が低下する。NHKでは、報道の自由を保障するため規制が少なく、株主もスポンサーもいないので、組織や意識が変わりにくい。その対策の1つとして、番組審議委員会を公開し、深夜番組でそれを放映してみたらどうだろうか。それが自己規制になるだろう。

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