静岡新聞論壇

2004年 

中国経済の成長と貧富格差

出稼ぎで食いつなぐ農民

中国は経済大国であり、例えば、基礎産業の生産量を日本に較べると、鉄鋼、アルミはそれぞれ2倍、セメントは9倍に達する。家電や携帯電話・パソコンなどのIT製品は、断然世界一である。中国の実質GDPを産出すると、世界第2位という推定があり、それは妥当だと評価する人が多い。

ところで、中国の産業の技術水準は、日本やアメリカに較べると、まだそれほど高くはない。そのため、IT産業では、輸入した機械設備が中核に据えられ、高級部品や重要素材は輸入であり、ハイテク産業の主たる担い手は外資である。自動車産業も外資が中心だ。しかし、世界の企業は争うように将来性がある中国市場に参入しており、中国政府は参入を許可するという威張った立場にある。

中国の沿海部の大都市では、裕福な階層が増えた。私の友人の中国人女性は、上海の大学で助教授をしており、ガードマンに守られた団地の中の240ヘーベの豪華マンションに住んである。居間にはグランドピアノがあり、2階には娘さんの部屋とジャクジー付きの専用風呂がある。彼女はこれは上流の下の生活だという。

沿岸地域には、こうした生活を楽しんでいる世帯数は6000万以上になるという。彼等が乗用車、大型テレビ、デジカメ付き携帯電話、日本産の果物等の高級品の顧客であり、経済成長とともに、こうした階層が急増している。

これに対して、地方の農民は貧しい生活を送っている。農民1人当たりの耕地面積は日本より遙かに狭いので、農民は貧しく、都市への出稼ぎによって食いつないでいる。農民戸籍の人は都市に住めないので、出稼ぎ先を解雇されれば、貧しい農村に戻らなければならない。長期間、働ける場合には、農村籍の子供は都市の小学校に入れないから、妻子を呼べない。

政府は貧富の格差の拡大を防ぐために、西部大開発に着手したが、直ぐには、この格差が消えそうもない。その上、各地で、水不足、電力不足、大気汚染、交通渋滞などのインフラ不足と幹部の汚職・腐敗が目立っている。現在、政府は、バランスある成長を狙って、設備投資の削減や金融引き締めに努めているが、もし抑制が効きすぎて、失業者が増大したならば、地方や都会の低所得層に溜まった不満が爆発するかもしれない。

民衆の不満のはけ口「反日」

中国は独裁政権であるから、民衆の不満の捌け口がない。政府は、見せしめとして、軽い犯罪でも死刑にすることがあるが、それだけでは抑制できないだろう。中国政府は最近10年以上も反日教育を続けたので、反日運動が盛り上がり、不満のガス抜きの機能を果たしそうだ。

中国にとっては、幸いなことにも、小泉首相が靖国神社参拝を続けている。「誰でも死ねば仏になる。東条さんも死ねば仏だ」という日本人の考え方は、「大悪人は死後も大悪人であって、永久に叩き続ける」というしきたりの中国人に対しては全く通用しない。その上、中国は被害者であるから、加害者の考え方に対して聞く耳を持たない。

現在、すでに多くの日本企業が生産拠点を中国に移転したので、日中の政治的対立が激化した時には、日本の被害の方が大きい。近い将来、反日運動が激化し、突然に、日系企業の工場が移転を通告されたり、デモに襲われたりする可能性がないとは云えない。

自国の主張を繰り返すのではなく、相手の言い分に耳を傾け、実利を考えて、例えば、東条さん等A級戦犯を靖国神社から外す、それまでは首相は参拝しないというような妥協をするのが外交である。また、中国の修学旅行を大規模に誘致して、子供達に日本を正しく理解して貰うという反日教育のに対する対抗策も、必要な外交手段といえよう。

ページのトップへ