静岡新聞論壇

2004年 

混合医療が開く医療大国

厚生省や医師会に反対論

現在の健康保険制度では、保険の対象になる診療は政府によって決められている。それ以外の医療は自由診療になり、保険診療と自由診療を併用する混合診療は禁止されている。つまり、保険の対象外になっている診療を受けると、検査や診察料を始め本来なら保険がきく治療部門もすべて自由診療と見なされ、全額が自己負担になるわけだ。

混合治療が禁止されているので、最先端の治療や新しい抗ガン剤治療を望んでいる患者の多くが、経済的に、その治療を受けることが困難になり、空しく死期を迎えることもある。民間の委員が中心になっている政府の「規制改革・民間開放推進委員会」では、混合診療を認めるべきだという考えが強い。

厚生労働省が混合治療を認めない理由は、まず、金持ちだけが新しい治療を受け易くなり国民の平等が冒されるということだ。第2に生命の安全が重要であり、保険診療の患者に新しい医療のリスクを負わせるられないという。第3に多くの病院が争うように新治療を開始するから危険だという。最後に、自由診療部門が増し、健康保険制度が崩れるという医師会の反対が影響している。

ところで、早晩、死期を迎えると観念している患者には、リスクを覚悟の上で、新しい治療を受け、九死に一生を得たいと切望している人が少なくない。考えてみると、新しい治療方法は、生命のリスクを賭けた患者の治療実績の積み重ねによって、完成するものだ。一般的に、大型技術の開発には生命のリスクを伴うことが多い。

ジェット機でも宇宙ロケットでも技術が完成するでには、多くの搭乗員が犠牲になった。医学でもそうだ。臓器移植治療が開発された当初には、移植された患者は数日間や数ヶ月間で死亡する例が多かったが、手術回数が増えるにしたがって生存期間が伸び、遂に、安全な臓器移植技術が確立した。アメリカは、こうして実績によって、医療先進国の地位を保っている。

ところが、日本では、厚生労働省が確実に安全な治療技術になったと認めるまで待たなければならない。それまで生命が保たない患者は、運命だと諦めるしかない。

厚生労働省は、新治療の導入が遅れることを恐れて、指定した病院で、特定の高度先進医療に限って混合診療を認めており、その範囲を少しずつ広げたいと考えている。つまり混合診療に関する許認可権を握り続けるつもりだ。

完全な情報公開が必須

ところで、厚生労働省は許認可権を握るのに相応しい実力を備えているだろうか。過去、サリドマイドや薬害エイズを始めとして大きな政策ミスがあり、現在でも、大病院で多発する医療ミスを防止できない。それなら、推進員会の主張のように、ある水準以上の病院・診療所は自由に混合治療を行える制度に変えるべきだろう。

その際、病院には、完全な情報公開と正確なインフォームドコンセントを義務づける。

例えば、高度治療に基づく手術を実施する場合には、執刀医を始め、手術に立ち会う医師については、予め専門分野、年間手術回数、成功率等の治療実績を公開しておく。患者には治療を失敗する確率を知らせる。家族が手術の状況をモニターで見られるようにし、かつビデオの保管を義務づける。虚偽の情報公開や虚偽の治療リスク伝達の場合には、厚生労働省は、病院の営業停止や医師免許の取り消しを含む厳しい処分を実施すべきだ。

混合治療が広がり、次々と新しい医療が育てば、日本は医療先進国になれるだろう。その上、外国人医師や看護婦が日本で自由に働けるようにすれば、世界各地から裕福な患者が日本に殺到し、日本は老齢化国家らしい産業、つまり医療産業大国になれる。厚生労働省、医師会、法務省がこの道を塞いでいる。

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