静岡新聞論壇

2004年 

大銀行の合併運動

変容する業務内容

6年前から始まった大銀行の合併運動は、遂に、東京三菱、三井住友、みずほの三大銀行グループに集約された。東京三菱と三井住友が、UFJとの統合を巡って、法廷闘争や敵対的な株式買収等、凄まじい手段を使って争おうとしているのは、合併運動のエネルギーの大きさを端的に示している。

古いタイプの大銀行は、もはや存続できない。日本経済は成熟期に移ったので、設備投資意欲が弱まり、大企業は設備資金を内部資金だけで賄える。また、株式や社債を発行して、自由に資金を調達できる。銀行は大企業に対する産業資金供給という機能を失った。

大銀行は生き残りをかけて、新しい業務に挑戦している。第1は投資銀行の仕事だ。幾つかの例を挙げてみよう。投資銀行は、不振な会社を買収して、採算部門を残し、不採算部門を売却する。経営者を能力ある人材に変える。生まれ変わった企業が成長した時、その株式を売却して収益を挙げる。

資源・エネルギー開発や都市開発等大規模なプロジェクトを仕掛けて完成させる。その時巨額な貸し付けが発生するが、その貸し付けにともなうリスクをつぎのような方法で最小に抑え、利益を確実にする。すなわち、多くの金融機関と共調してシンジケートローンを組む。貸付金を沢山の証券に分割し、機関投資家に売却する。開発した施設から得られる収入を、元利金の返済に向ける仕組みをつくる。

投資銀行業務の収益は大きいが、それには深い専門知識と広い人的ネットワークが必要だ。

第2に、個人や零細企業向けサービスである。消費者金融、住宅ローン、零細企業向けローン、保険・投資信託・国債・株式等の販売がある。膨大な数のお客を相手にするから、IT化や、トヨタのような細かい「カイゼン」の積み上げ等によるコストの引き下げが必要である。また、ローンでは顧客を広く開拓すれば、貸し倒れが増えるので、そのバランスを巧く保つマニュアルを造らなければならない。

第3には、ベンチャー企業や中小企業に対する投資や育成融資である。そこでは、企業の技術開発力、地域産業の理解、経営者の経営能力など、ベンチャーキャピタルや地方銀行・信用金庫が蓄積している知識が必要だ。

第4に中国を始め、海外における金融活動であり、最後に、デリバティブ取引を始めとする金融サービスの豊富な品揃えである。

UFJ統合に期待

大銀行は何れの機能も国際的にみると相当劣っている。三大銀行は不良資産の償却に目途がついたので、この欠点を一挙に埋めようと積極的な戦略に打って出た。合併や系列化によって、銀行、信託、証券、投信・投資顧問、消費者金融・カード、リース等の金融機関を統合して、世界一流の金融グループをつくろうというわけだ。

ところで、問題はまず中核を担う銀行の収益力がまだ相当に低いことだ。東京・三菱は保守的な経営だったので不良資産が少ない反面、産業銀行的な色彩が強く、低収益である。三井住友は、個人や中小企業融資によって収益力が強いといわれるが、アメリカの大銀行と較べると、収益率は10分の1ぐらいだ。

また、合併によって、銀行の企業組織が大きくなると、意志決定に時間がかかり、機動的な経営が出来ない。寄り合い所帯では、当分の間、組織が混乱する。金融グループ傘下の多様な金融子会社は、それぞれが必要とする人材や能力が異なり、経営手法も違うので、グループ化によるメリットと同時に、対立・混乱が生まれる危険性がある。

今後、国際競争力を備えた強力な金融集団に生まれ変わるには、死にものぐるいの経営努力が必要であるが、UFJを奪い合うエネルギーをみると希望が湧いてくる。

 

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