静岡新聞論壇

2004年 

誰も責任をとらない役人

謝罪しない国土交通省

三菱自動車は、車輪を固定する金属部品やクラッチの不良によって、90年代の始めから、大型トラックやバスで事故がしばしば発生したが、「リコール隠し」を続けてきた。死亡事故が発生した時には、輸送会社の整備不良のせいにした。

国土交通省は、三菱自動車側の責任逃れの弁明を鵜呑みにして、何の対策も取らなかった。ところが、横浜における脱落タイヤによる主婦死亡事故が刑事事件として取り上げられて、やっと、三菱の責任が明確になった。

大型トラックや高速バスが、何回も同じような事故を起こしていれば、部品不良の疑いを持つはずである。明らかに、国土交通省のミスであるが、石原国交省大臣は「結果として騙された。当時としては精一杯やった」といい訳をし、謝罪の言葉がなかった。国交省の事務方責任者も、「騙された」と述べるだけであり、まるで罪意識がない。三菱自動車の幹部だけが刑事告発された。

年金制度は欠陥だらけであり、社会保険庁は国民年金の未納者に未納通知すら出さなかった。多くの政治家は未納問題で非難され、菅さんは代表のポストを失った。しかし、社会保険庁の役人は誰も責任を取らなかった。

また年金運用基金では、3000億円以上をかけて、ほとんど使われないグリーンピアを13カ所も造り、投融資では、4兆円以上の損失を出した。それにも拘わらず、社会保険庁では、海外研修、交際費等の費用に年間約3000億円も使い、理事長は3000万円近い年俸である。

こんなに無駄をすれば、民間企業なら厳しいリストラが行われ、役員は株主訴訟を受けて財産を失っているはずだ。ところが、厚生労働省や社会保険庁の役人は、法律に定められた範囲の行動であるという理由で処罰されない。勿論反省もない。

帰国した拉致家族は、政府から下にも置かない手厚い扱いを受けている。その理由は拉致されてから、20年近くも、日本政府は拉致の事実を認めず、救出しようとしなかったからだ。新潟県では、人が消えるという評判が広がった海岸がいくつかあった。子供や兄弟が突然消えた家族は、80年代の終わりから拉致に気づき、外務省に働きかけたが、全く相手にされなかった。

それどころか、90年には、22名の国会議員からなる金丸ミッションが訪朝して金日正から大歓迎を受けた。このミッションは拉致問題に触れずに、食料支援と国交回復(賠償)を約束して帰国した。

拉致問題無視の大失態

ところが、拉致被害の家族会によるねばり強い運動によって、拉致問題が国民の間に広がった。政府はやっと拉致問題に取り組み、小泉さんは、訪朝して5月に地村さんと蓮池さんの家族を取り戻した。

日本の国内で拉致された人達を長い間無視したのは、主権国家の政府としては絶対に許せない大失態だった。担当である外務省ではこの問題で誰も責任を取らなかった。また金丸ミッションに加わった国会議員には、その後大臣になったり、現在でも活躍している人がいるが、それぞれ素知らぬ顔をしている。

人間は過ちを犯すものであるから、大きな過ちでも許される場合がある。しかし、許せないのは誤った政策を引き継ぎ、少しも直そうとせずに任期を過ごし、かつ責任を避けている人だ。役人にはそういう人が余りにも多い。

天気予報官は、予報が外れても、気象の予想外の変化のせいのして謝らないが、誤りの社会的影響が少ないから許される。これに対して、役人の不遜な姿勢は、国家に対する国民の不信感を煽る。深刻な問題である。

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