静岡新聞論壇

2004年 

ドル暴落のシナリオ

借金依存のアメリカ経済

世界経済は、2001年には、ITバブルの崩壊によって不振に陥ったが、02年から回復し始め、翌年の後半から急激な上昇を続けた。世界経済の回復をリードしたのはアメリカ経済であるが、アメリカ経済の借金体質はそろそろ限界に近づき、早晩、世界経済をリードする力を失いそうだ。

アメリカ経済がITバブルの崩壊から立ち直れたのは、個人消費がローンに依存して増大したからだ。極端な低金利政策が実施されたので、消費者は住宅ローンを低金利ローンに借り換えることによって、金利負担分を軽くし、それを消費に向けた。

景気回復とともに、住宅の担保価格が上昇したので、住宅担保の消費者金融の借り入れ枠が拡大した。このローンは、担保があるから、金利がかなり安かった。それが消費を一層刺激した。さらに、普通の消費者ローンも拡大した。こうした結果、個人ローンが累増の一途を辿り、ついに、個人のローン残高は、平均すると、年間の個人所得に匹敵する大きさになった。

国の借金も増えた。個人消費を刺激するために、財政支出の拡大や大規模な減税が実施され、またイラク戦争によって軍事費が拡大した。今年度の財政赤字は5000億ドルを越え、過去3年間の赤字累計額は、1兆ドルに達した。それに応じて国債が増発された。

アメリカ人は、ローンにとって、毎年、生産にした以上の物やサービスを消費して豊かな生活を営み、政府は膨大な国債を発行して世界最強の軍隊を維持しているといえよう。その結果、アメリカは輸入大国になり、世界の総輸入額の20%近くを占め、世界各国の経済回復を助けた。日本を始めとするアジア諸国では、対米輸出の増大が景気回復のきっかけになった。

その皺はアメリカの年間6000億ドル近い貿易収支赤字に寄せられている。有り難いことに、ドルは基軸通貨であるから、アメリカ政府はドルをどしどし印刷して、輸入代金を支払うことができる。しかし、それを続けると、世界にドルが溢れて、何時かはドルの価格が暴落する。

原油高騰が追い打ち

ところで、日本、中国、アジアNIES等の輸出超過国では、累増した手持ちのドルをアメリカ市場における国債・社債・株式等の有価証券投資や、企業買収に運用している。それは、アメリカでは、経済が成長し、物価が安定し、透明性が高い経済システムが存在し、かつ政治が安定しているからだ。アメリカは、貿易収支の赤字によって世界に散布されたドルを、海外の投資家によるアメリカの有価証券の購入等を通じて、回収しているのである。

その結果、ドルは価格暴落を免れているが、今や、アメリカの対外債務は3兆ドルを超え、GDPの60%の水準に達してしまった。国債をみると、その40%が外国政府等によって所有されている。下手をすれば、外国政府がアメリカの政策に影響を与えかねない。

もし、ある国の投資家がアメリカが抱える巨額な対外債務を嫌って、ドル建て有価証券を売却し始めると、他の国もドルの暴落を恐れて、一斉にドル建て有価証券を売却し、実際に、ドルが暴落するかもしれない。

悪いことに、原油価格が急上昇しており、アメリカの貿易赤字はもっと拡大しそうだ。イラク戦争によって、アメリカは世界各国のの信頼を失っただけではなく、テロ勢力が強まり、アメリカ国内でもテロが再発しそうであり、それだけ、アメリカ対する投資リスクが高まった。また、この戦争のために、中東が混乱しており、世界の原油供給量が増えない。イラク戦争によって、アメリカ経済の国際的支配力は明らかに弱まった。

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