静岡新聞論壇

2004年 

農業政策は変わるべきだ

米農家は惨憺たる状態

今までの農政の中心課題は農民の生活を守ることにあり、そのため米の価格は長期間にわたって引き上げられてきた。その結果、50年前には、日本の米価は国際価格を幾らか下回っていたが、現在では国際価格の6倍に達してしまい、日本の米は500%の関税障壁によって、国際市場から守られている状態だ。

高米価政策は農業にいろいろな歪みを与えた。兼業農家は米を買うより、自分で生産した方が安上がりにつくので、サラリーマン勤めをしながら、片手間で米をつくっている。彼等が農地を手放さないので、専業農家は農地を拡大できず、小規模生産を続け、生産コストが高い農家ばかりである。

高米価は、米の生産を刺激するから、米は慢性的に供給過剰になった。そこで政府は一律減反政策を続けている。生産コストが低い大型専業農家も、コストが高い小規模な兼業農家も同じ比率で減反させられので、日本の米農業は一層小規模生産になり、産業としての基盤が弱まった。生産量すら自主的に決定できない米農業のような業界では、個人企業(専業農家)の跡継ぎがいなくなるのは当然であり、働き手が65才以上の専業農家が過半に達した。米農業は一見平穏に見えるが、実情は惨憺たる状態だ。

ところで、高米価政策のもとでは、貧しい消費者が高い米を買い、それによって豊かな農家の所得が増えるという関係が生まれる。本来なら、米の価格は国際市場の需給関係に任せるべきだ。その際、米の価格低下による農家の破綻を防ぐために、一般会計から直接農家に補助金を支給するという仕組みをつくる必要がある。その財源は税金だ。税金は金持ちが多くを負担し、貧しい人はごく僅かしか負担しないので、農業を守るために米の価格を高くするより、はるかに公平である。

ところで、補助金は農地を借りて生産規模を拡大しようと云う意欲に満ちた専業農家に対してだけ、耕地面積に比例した額を支給すべきだろう。そういう農家が日本の農業を強くしてくれるからだ。兼業農家は補助金を貰えないが、自分の農地を意欲ある専業農家に貸せば、賃貸料収入が生まれる。高齢者農家も補助金を貰えないとしても、農地の一部を貸せば、賃貸料が体力の衰えに伴う所得の減少をカバーしてくれる。

専業農家の生産拡大意欲が強まれば、農地の借地需要が拡大して、賃貸料が上昇するから、農地を賃貸する兼業農家や高齢者農家が増えるだろう。彼等の生活は楽になる。こうして、農業の生産規模はスムースに拡大するに違いない。

株式会社の参入を認めよ

農業は総合技術産業であって、品種改良、生産のハイテク化や自動化、健康で安全な食料の開発、バイオ技術の応用、効率的な流通網づくり、低利な資金調達などの多様な技術が必要であって、小規模な農家ばかりでは、国際的な競争から取り残される。強い農業生産法人をつくり、株式会社の参入を認めることが必要だ。

日本の食料自給率は(カロリーベース)アメリカ、フランスの100%、ドイツの99%に較べると、たった40%に過ぎず、安全保障上深刻な状態だ。日本の農業でも大規模生産を行う近代的な企業が成長し、また高価格でもあっても品質が優れた作物を生産し、輸出を伸ばすような優れた技術を備えた個人企業(専業農家)が増加すれば、日本の農業の国際競争力は向上し、食料自給率も自然に上昇するはずだ。

農業政策は、高米価、一律減反、農道や土地改良工事による副収入の保障による農家保護を止め、企業的農業の育成に変るべきだろう。最近発表された農水省の「食料・農業・農村政策審議会」の中間報告はその必要性を認めている。農業にもビッグバンが起きつつある。

ページのトップへ