静岡新聞論壇

2004年 

年金問題の根本的視点

「調整」は巧みな給付額カット

現在の年金は現役世代が高齢世代を支えるという仕組みになっている。今後、高齢者人口が激増し、現役世代の人口が激減するから、年金が破綻するのは当然だ。

その対策として、誰でも考えつくのは、年金保険料の引き上げと年金給与額の引き下げだ。政府の改正案では、厚生年金の保険料は2017年度までに18.3%に引き上げられ、給与額は50%に引き下げられる。政府は給付額をさらに減らすために、「マクロ経済スライド」という調整方法を考案した。

この方法によると、例えば、物価が3%低下した時には給与額は3%減らされるが、物価が3%上昇した時には、給与額は2%しか上昇しないことがある。それは、予想以上に現役世代の人口が減り、また高齢者人口が増えた場合には、「調整」が行われるからだ。

この「調整」は、名目給付額が増えた時に行われるので、実質額の減少が目立たない。政府の年金改革案は楽観的な人口予測を根拠にしている。そのためインフレの都度、「調整」されるはずだ。現在、通貨量が激増しているので景気の好転とともに物価が上がりそうだ。「調整」は巧みな給付額カットである。

ところで、厚生年金の保険料を大幅に引き上げると、保険料の半分が企業負担であるから、企業は負担を逃れるため工場を海外に移したり、パートやアルバイトを増やしたりするだろう。そうなると、経済成長率が低下して所得が減る、厚生年金の加入者が減る、国民年金への加入者が増えるという影響が生まれる。

国民年金には、自家営業者、フリター、タレント等が加入している。加入者は毎月約1万3000円(改正案では約1万7000円)を40年間支払い続けて、やっと老後に毎月6万円6000円の年金が給付される。国民年金の給付額は3分の1(改正案では2分の1)が税金で賄われる上に、厚生年金等から支援を受けているので、加入すると利益が得られるはずだ。しかし、未納者は増える一方であり、遂に40%近くにまでなった。

フリーターで一生を過ごし、貯蓄が少ない人が、老後、月に7万円弱で生活できるだろうか。頼りない限りだ。また、実際に7万円弱が給付されるかどうか怪しいものだ。そう考える人が多い。

外国人含めた制度考える必要

まず、社会保険庁の事務がいい加減であり、7名の大臣が保険料未納に気がつかないほどだ。電話一本かければ、彼等は支払ったはずだ。つぎに厚生官僚が信頼できない。彼等は年金に関する特殊法人を沢山つくり、大勢のOBを天下りさせた上、「グリーンピア」を始めとして、膨大な金額を無駄遣いした。それは10兆円近くに達するという。しかし誰も責任を取うとしない。しかも、官僚だけは手厚い年金制度に守られている。こんな官僚が運用する年金は、とても信頼できない。

最後に、政府の年金政策に広がりが見られないことだ。多くの年配者は、賃金が低くても、70才以上まで働きたいと思っている。重要なことは、年金給与額を減らすと同時に、高齢者の働き場所を用意することだ。また出生率を高める必要がある。それには託児所の充実や職住近接等、子供のいる女性が働きやすい職場を用意しなければならない。またフリーターの老後は、生活保護で対応すべきだ。

もし、現役世代の減少を外国人労働者でカバーできれば、年金問題の大部分が解決される。介護や製造業の労働力だけではなく、日産のゴーン社長のような能力ある外国人も欲しい。外国人の経営者・技術者・学者が増えれば、日本経済の生産性が高まる。彼等を含めた年金制度を考える必要がある。

与野党は、こうした根本的な視点なしに年金問題を議論しているので、一層不安になってくる。

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