静岡新聞論壇

11月20日

切迫感欠く経済危機対策

世界的規模の「大不況」

景気は一直線に悪化している。世界的な不況によって輸出は減少し、また円高のため輸出の採算は悪くなった。企業は操業率を落とし、契約社員や期間工を減らしている。

原油や穀物国際価格が大幅に低下したので、消費者物価の上昇が止まり、個人消費の低迷が一息つきそうだった。しかし、実際にはボーナスが減り、失業が増えて、乗用車、家電製品、携帯電話の売り上げが激減した。

現在の不況は、アメリカの金融危機を引き金にして、それが世界的規模で広がった結果だ。欧米の工業国では中央銀行が金融機関に潤沢な資金を供給し、また自己資本が不足している金融機関には公的資金が投入され、同時に預金が保護された。

政府が金融機関をまるで国有化したような手荒な政策を実施して、欧米の金融危機は強引に押さえ込まれた。今後金融機関は生き残りのために、貸し渋りを続けるから、企業倒産が増え、実体経済が深刻な不況に襲われ、マイナス成長に苦しむだろう。アメリカではGMが倒産寸前の状況にある。

日本の金融機関は、20年前のバブル経済の経験に懲りて安全経営を心がけたので、欧米諸国に較べると被害が少なかった。しかし世界的な大不況の影響を受けて、次第に経営が苦しくなってきた。輸出が減少し、輸出関連企業の業績が不振になるにつれて、不良債権が急速に増大し、その上、手持ちの株式やアメリカの金融商品の価格が低下したので、自己資本不足に落ち込んでいる。

大銀行は大型増資と貸し渋りによって、苦況を乗り切ろうとしているが、経営基盤が弱い地方の中小金融機関は経営危機に直面している。地方には有力な企業が少なく、預金を集めても融資先が見付からないから、過剰資金は株式やアメリカの金融商品等の有価証券に運用されてきた。ところが、それらの価格が暴落してしまった。その結果大幅な自己資本不足に落ち込んだが、増資したくても応募者がいない。生き残りのためには、貸し渋りや貸し剥がしを強めるだろう。

上場企業の幾つかは、アメリカの投資銀行から資金を借り入れていた資金が金融危機の発生とともに引き揚げられ、資金繰りがつかず、黒字経営にも拘わらず、倒産した。現在、地方では、中小金融機関から融資資金の借り換えを拒否され、黒字経営であるが倒産に追い込まれた中小企業が増えている。そのため、地方経済は一段と深刻な不況に追い込まれ、その結果中小金融機関の不良資産が一層増え、自己資本がさらに不足するという悪循環が生まれている。

給付金は自己防衛の貯蓄に

こうした状況下では、中小金融機関の資本を補強するための公的資金の投入、中小企業融資に対する信用保証制度の拡充、有価証券の時価評価基準を緩和といった緊急措置が必要だ。

総合的な経済危機対策として、日本銀行は誘導目標金利を0.3%まで引き下げ、政府は「定額給付金」を目玉にしている。確かに、景気刺激策としての「定額給付金」は、無駄なハードを造る公共事業より優れている。しかし、政府は年金や事故米事件等によって国民の信頼を失っており、また近い将来増税になる。高齢者等弱い立場の人は自己防衛のために給付金を貯蓄に回すに違いない。高額所得者の消費には影響を与えないだろう。

政府が高額所得者を除くかどうかで右往左往して判断を自治体に任せ、自治体は事務量が増えると怒っている。交付金は経済危機を克服し、失業を減らす重要な緊急措置であるにも拘わらず、政治家や自治体は切迫感をまるで欠いている。それは心が弛みきった衰退国家の特色であり、国民は政府を一層信用しなくなり、貯蓄に励みそうだ。

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