静岡新聞論壇

6月14日

原材料価格上昇のしわ寄せ

中、低所得者は生活切り詰め

原油や穀物の価格が急上昇し、その影響が日用品の価格上昇に波及しているが、買い溜めが発生せず、社会は落ち着いている。 消費者は、ドライブを諦め、バターをマーガリンに変え、食事の質を落とし、過食を改めて、自己防衛している。豊かな時代だから、消費者は多様なレジャーや食品から安価と感じたものを選択して、何とか価格上昇に対応しているように思われる。

こうした行動によって、原油や食品の輸入が減り、産油国や穀物生産国に奪われる所得が少なくなれば、日本経済の成長力が失われずに済むという計算になる。ところが、暢気に構えていられない事情がある。ドライブを控え、食事の質を落としているのは、中~低所得層の人達であって、彼等は値上がりに追いつめられ、生活を切り詰めたのだ。

企業は原材料価格の値上がり分を製品価格に転嫁すると、売り上げが激減するから、安易に値上げできない。そこで、コストの増加額を社内で吸収しようとすると、賃金にしわ寄せされ、中~低所得層の賃金が引き下げらる。その結果、その商品を買えない階層が一層増えるのである。その時、原材料費がさらに上昇すると、賃金カット額が増加する。こうして原材料価格の上昇と賃金カットの悪循環が発生しつつある。

1970年代に、2回の石油ショックがあり、原油価格が暴騰した。その時、大企業は利益を吐き出して雇用を守り、政府は石油価格の上昇によって被害を受けた中小企業や農業に対して保護政策を実施した。その結果、大企業の利益は大幅に減少したが、家計は殆ど被害を受けなかった。

大企業はコスト引き下げのために、省エネ技術の開発と省エネ投資に全力をあげざるを得なかった。また家計は豊かになったので、サービス支出が増えた。サービス産業はエネルギー消費量が少ない。こうして、第一次石油ショックの15年後には、GDPを1単位増やすのに必要となるエネルギーは40%も減り、原油輸入額が減少し、石油ショックに強い日本が生まれた。

その頃、従業員が最も重要な経営資源と考えられていたから、賃金カットの際には、社長や役員の賞与が大幅にカットされ、平社員は小幅なカットに止まった。従業員は終身雇用の慣行を信頼していたので、マクロ経済が不況に落ち込んでも、個人消費は衰えず、不況は悪化しなかった。

ところが、現在は、経済がグローバル化して、外国の投資機関が大企業の大株主になり、高配当を要求するので、15年先を見据えた省石油投資より、目先の収益向上が重要になってきた。また終身雇用の慣行が崩れたので、不況になると、従業員は将来が不安になり、消費を抑える。個人消費が弱いので、景気は浮揚力を失うのである。

労働組合が団結の段階に

労働組合が強くなるべきだ。そうなれば、企業は収益を削り賃金に回すから、個人消費が伸びる。またコストの引き下げのために、省資源・省石油技術の開発や設備投資に全力を投入せざるを得ないだろう。中国の賃金水準が上昇したので、工場が中国に移転するケースは減ってきた。社会インフラの充実、従業員の規律、従業員の定着性等の諸点から、国内立地の方が有利だという産業が増えている。日本の賃金水準が上昇する余地は十分ある。

日本経済の成長には、企業の利益増大意欲に対抗できる労働組合の団結力が必要な段階に入ったようだ。とくに、契約社員の労働組合が強くならなければならない。しかし、サボタージュが得意であって、生産性を引き下げているような労働組合、1刻も早く、弱体化してもらいたいものだ。

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