静岡新聞論壇

8月21日

中国に反発するイスラム

新疆ウイグルで連続テロ

中国の新疆ウイグルでは、オリンピックの開催に合わせて小型テロが連続的に発生し、中国政府とイスラム過激派との長い戦争が始まったようだ。

イスラム教徒はどの宗教の人達とも平和に暮らしているが、イスラム教が圧迫され、独特な生活規範が犯されそうになると過激派が生まれ、また過激派を支持する人が次第に増えてくる。

イスラム教徒は毎日5回メッカに向って礼拝し神への帰依を誓う。偶像は厳禁であり、断食月には揃って断食する。女性は皮膚を覆っている。また絶対に豚料理を食べない。酒も飲まない。

これに対して、中国人はカラフルな仏像に大家族の繁栄を祈願し、毎日のように豚料理を食べ酒を飲む。旧正月には爆竹をならし、馳走を食べる。中国服は裾が割れている。イスラム教徒から見ると、それは確実に地獄に堕ちる生活だ。

イスラム教徒と中国人が近所に住み、親しく交際していても、生き方はまるで違っている。中国人は5000年の歴史に中で築かれた習慣を守り、イスラム教は唯一神のアラーが決めた戒律を破ることはできないのだ。それぞれ固有の文明に中に生きている。

華僑は東南アジアの経済を握っているが、イスラムの国(マレーシアやインドネシア)では、過去に、数万から数十万人の華僑が殺戮されるという事件が発生し、現在、タイ(仏教国)やフィリピン(キリスト教国)では 少数派のイスラム教徒が反政府ゲリラを続けている。文明の質が違うのである。

歴史を振り返ると、7世紀から14世紀にかけては、インドの東から大西洋に広がる巨大なイスラム国家が形成され、そこではヘレニズムを継承した高度な文化が栄えたが、現在は、アメリカ(キリスト教)やロシア(東方正教)等の大国に圧迫され、 バラバラな国家に分割されたり、異教徒国家の中に押し込められ少数民族として生きたりしている。しかし、指導者はイスラム文明のすばらしさを知っている。

彼等は、イスラムの国家の間における争いには、他の文明圏の國は介入する資格がないと考えている。湾岸戦争では、大部分のイスラム国家はアメリカ軍の侵攻を激しく批判した。アフガニスタンが1989年にソ連軍を撃退し、現在、ゲリラ組織がアメリカ軍とその同盟軍の攻撃に耐えているのは、イスラム諸国から巨額な資金と数万の義勇軍の参加によるものだ。

官民即の経済、観光開発新疆ウイグル

中国は皮肉な運命の下にある。中国経済は目覚ましい成長を続け、沿岸地方では賃金が上昇したので、経済開発や観光開発は新疆ウイグルにも拡がった。それとともに、漢民族の人口が増え、経済力が強まり、イスラム教徒のコミュニティーが押しつぶされそうである。そうした時に、イスラムの「テロ戦争」が起きやすい。その上、中国の原油消費量が激増したので、原油の国際価格が急上昇して、イスラム産油国が豊かになり、ウイグルのテロ組織に潤沢な資金が供給されるようになった。

イスラム文明を力で押さえつけ、中国文明に同化させることは不可能だ。ハンチントンが指摘したように、イスラム文明が西欧文明や中国文明に接している中央アジアでテロの原因が生まれ、「テロ戦争」が世界的規模に拡大しやすい。

中国が、将来、部族を基礎とした祭政一致の社会システムを尊重し、ウイグル族の起業家や官僚を育て、広い自治権を与えて、ウイグル族との緩やかな連邦に向った時、堂々とした世界的国家への道は開けるが、漢民族のナショナリズムがそれを許さないだろう。

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