静岡新聞論壇

11月3日

アメリカ的市場経済の崩壊

米貸付債権の過度な証券化

アメリカ発の金融危機は一気にヨーロッパ、東欧・ロシア、アジア諸国に広がり、日本経済も巻き込まれた。

アメリカの証券会社やヘッジファンドは、住宅債権を証券化した金融商品の価格暴落によって莫大な損失を被り、その結果、資金運用を任せてくれる顧客を失った。また、今まで、金利が低い円資金を借り入れ、高利回りの金融商品や株式を購入してきたが、損失が拡大すると同時に、銀行は円資金の返済を迫ってきた。

証券会社やヘッジファンドは資金繰りに困り、アメリカや日本の企業の株式を投げ売りしているから、株価が暴落した。また、借入金返済に必要な円を購入したりするためドルやユーロを売却したので、瞬く間に円高が進んだ。日本の景気は輸出の増加に支えられてきたが、円高と共に先行きが暗くなり、株価が一層暴落した。

日本の銀行は甚大な打撃を受けた。それは購入したアメリカの証券化商品の評価額が激減した上に、所有している株式の価格が暴落したので、巨額な評価損が発生したからだ。地方銀行の一部は自己資本不足になり、経営危機に落ち込んだ。

銀行は自己資本比率が低下すると、金融庁の管理下に置かれるので、それを避けるために、貸し渋りや貸し剥を進めている。多くの中小企業は景気後退と貸し渋りの挟み撃ちに会い、倒産する可能性がある。政府は、貸し渋りを防ぐために、株式の買い上げ機構を設立して、株価の暴落を阻止しようとしている。

ところで、アメリカの金融危機の原因は、貸付債権の過度な証券化にあった。貸し倒れリスクが大きい低所得者向けの住宅ローンは、多数の均質で小型の新金融商品に変えられ、元本の保証と高い格付けが与えられ、国債と同じように流通市場で売買された。余りにも巧みな仕組みだったので、誰もその金融商品が抱えているリスクを判断出来なかった。

アメリカ政府は、金融機関の倒産を防ぐために、預金の保証、公的資金による不良資産の買い上げや自己資本の充実、救済合併の促進など、未曾有の規模の緊急措置を実施している。また、銀行の自己資本不足を避けるために、時価会計の適用を緩くした。市場経済の基礎は、時価会計によって絶えず企業の経営内容を公開して、投資家の判断を仰ぐというシステムにあった。これは、この根本理念を否定する措置であり、アメリカ経済はそれほど追いつめられている。

大規模な内需拡大が必要

世界の工業国では、多くの銀行は、アメリカの証券化商品や株式の価格の暴落とともに、自己資本が削り取られ、貸し渋りが拡大した。企業経営が不振になり、リストラが進み、消費や設備投資が減退した。不況が深刻化すると共に、銀行の不良債権が増え、貸し渋りが一層強まっている。その結果企業倒産と失業が増え、景気が悪化するという悪循環が続いている。また中国を始めとする新興国は対米・対EU輸出が減り、深刻な不況に入りつつある。

アメリカ経済は、消費過剰の浮腫んだ体質に変わってしまった。景気が回復するためには過剰消費を改め輸出を伸ばし、経常収支赤字を大幅に減らす必要がある。ドルの信頼性が失われてさらにドル安になり、その結果輸出が伸びるだろう。アメリカ政府は、経常収支赤字を圧縮するために、保護貿易政策を開始する可能性が大きい。

世界的な大不況の中で、日本経済が危機を脱するには、株価対策や弱少金融機関への公的資金の投入、中小企業に対する資金の供給の他に、非常に大規模な内需の拡大政策が必要だ。財政再建は先送りにならざるを得ない。風が強く、目先の火災が大火になりそうだ。全力を投入して消火すべきだ。

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