静岡新聞論壇

9月22日

米国発の世界的金融危機

不良資産化する住宅ローン

アメリカの住宅バブル崩壊が、世界的な金融危機を誘発している。アメリカの住宅価格は06年中頃のピークから20%も低下したが、中古住宅の在庫はまだ高水準にあり、今後さらに低下しそうだ。

ローンが残っている住宅の全評価額は13兆円に下がり、住宅ローン残高とほぼ等しくなったので、持ち家所帯の住宅評価益は消えた。今後、評価損が発生しそうだ。住宅を担保とした消費者ローンを借りている所帯は担保価格の低下する都度、銀行から差額の返済を迫られる。アメリカ人は住宅ローンや消費者ローンが多いので、住宅価格が低下すると、返済不能な所帯が激増するのだ。

こうした結果、貧困層向けのサブプライムローンだけではなく、中産階級向けのプライムローンでも貸し倒れが増え、差し押さえられた住宅は競売に掛けらるから、住宅価格は低下の一途を辿った。

証券会社は住宅金融会社から住宅貸付債権を買い取り、それを証券化した金融商品(証券化商品)をつくって、内外の金融機関や投資家に売却した。その残高は650兆円を超え、日本のGDPの1.5倍の大きさだ。住宅貸付債権は世界に分散され、何処にどの程度のリスクがあるのか皆目判らないという不安な状態になった。

ところで、住宅価格が急スピードで低下すると、投資ファンドは投資先を証券化商品から原油市場に変えたので、原油価格が年間で2倍も押し上げられ、家計は大打撃を受け、住宅ローンの返済能力はさらに減った。

住宅ローンが不良資産化するとともに、証券化商品が売れなくなり、証券会社の資金繰りは苦しくなる一方だ。またファニーメイとフレディマックといった2大住宅金融公社は、証券化商品を保証し、また所有もしていたので、証券化商品の価格暴落によって経営危機に落ち込んだ。銀行も財務内容が悪化し、それ改善するために「貸し渋りや貸し剥がし」が拡がった。また投資ファンドは、原油需要の減少を予想して7月から売却に転じた。

アメリカ政府は金融危機を乗り切るために今月初め、両住宅金融公社を管轄下に置き、公的資金の投入を決定した。また証券業界では資産総額・5位のベアスターズはJP・モルガンに、また3位のメルリリンチはバンク・オブ・アメリカに、それぞれ買収され倒産を免れたが、4位のリーマン・ブラザースは買収先を見付けられなかった。

日本も大胆な景気対策必要

政府は、倒産の影響が大きいにも拘わらず、経営内容が悪すぎることや、顧客の預かり資産が別会計になっている等の理由で救済しなかった。世界の主要金融機関は資産総額80兆円のこの巨大証券会社に対して投融資を行っており、それらの多くが損失になりそうだ。  金融機関はお互いに疑心暗鬼になり、相手の倒産を恐れて資金を融通し合おうとしない。そのため、銀行の資金繰りがつまり、連鎖倒産が発生する可能性がある。

アメリカ最大の保険会社AIGは資産価値が激減して存立の危機にあったが、増資に応じてくれる投資家が見付からなかった。アメリカの中央銀行と政府は連鎖倒産が世界的に拡大するのを恐れ、16日ついに9兆円近い救済融資と公的資金による資本増強を決定した。もし、金融が混乱して深刻な不況が発生すれば、住宅価格はさらに低下するだろう。

EU経済はすでに不況局面に入っており、イギリス等幾つかの國は不動産バブルが崩壊して深刻な金融危機に落ち込んでいる。アメリカの金融危機が世界的な経済危機を増幅している時であるから、AIGの救済措置は重要な意義を持っている。日本経済は輸出が減少して大打撃を受けるだろうから、赤字国債の発行を恐れず、大胆な景気対策を実施することが必要だ。

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