静岡新聞論壇

10月6日

公的資金投入の必要性

米金融機関の経営悪化

アメリカ経済は、深刻な金融危機に落ち込んでおり、金融活動にとって重要な機能を担っている短期金融市場が死に体である。どの銀行も、短期金融市場で資金を貸し出すと、相手の銀行が今日にでも倒産し、貸し倒れになることを恐れている。

金融機関の経営悪化は凄まじい勢いで進んでおり、最近半年で5大証券会社のすべてが消え、2つの大銀行が救済合併され、2つ住宅金融公社とトップの保険会社がそれぞれ政府の管理下に入ったが、金融危機が収まる気配は全くない。銀行がお互いに疑心暗鬼が深まり、短期資金市場では、借り入れが困難になってきた。

その結果、銀行の資金繰りが悪化し、貸し渋りが広がった。住宅や消費者ローンが減ったので、個人消費が大幅に減少し、また企業の設備投資がガタ減りだ。企業倒産と失業者が激増している。その影響は世界に広がっている。アメリカの金融機関に資金を引き揚げられて日本の不動産会社が幾つも倒産した。

アメリカの連邦準備理事会(FRB)は、銀行が資金繰りに詰まって連鎖倒産し、アメリカ経済が破滅するのを恐れ、短期金融市場に巨額な資金を投入し続けている。日本銀行を始め主要工業国の中央銀行は、自国の短期金融市場に莫大な額のドル資金を供給して、アメリカ系銀行の資金繰りを助けている。

この金融危機を乗り越えるためには、まず第1にアメリカ政府が、公的資金を投入して銀行から不良債権を買い取ることが必要だ。その際、政府は可能な限り高い価格で買い上げるべきだ。不良債権が売却されると、銀行の財務内容がはっきりする。

政府が幾ら努力しても、議会の反対が強いから、不良債権は、平均すると原債権の半分ぐらいの価格で買い上げられるだろう。銀行の自己資本は損失が明らかになった額だけ減少するから、信用力が弱まり、預金が引き下ろされるかもしれない。

第2にそれを防ぐために、政府は2年間ぐらい預金を全額保証すべきだ。第3に銀行の経営内容を調べ、立ち直り可能な銀行に対しては、さらに巨額な公的資金を投入して(株式を購入し)、自己資本を充実させる。立ち直れそうもない銀行は、強い銀行に吸収合併させる。こうすれば、危ない銀行がなくなり、金融危機が収まり、融資が伸びるはずだ。

世論が障壁、対策後手に

ところで、どの國でも、金融危機を克服する時の障壁は世論である。アメリカの下院は世論を恐れ、9月30日に公的資金による不良債権の購入法案を否決したので、直ちに株価は大暴落し、金融恐慌寸前の状況になった。ヨーロッパでも大銀行の倒産が続いており、世界的な金融危機が誘発されそうだ。議会は慌てて、10月3日に金融再生法案を通過させたが、不良債権の買い取りだけでは、銀行システムの再生は不可能だ。

日本でも、90年代の金融危機の時、世論は挙って銀行への公的資金投入に反対した。大蔵省は一時凌ぎのために、銀行に対して実質的な粉飾決算を認めた。銀行は膨大な不良債権を抱え続けたので、貸し渋りと貸し剥がしが広がり、企業倒産が増え、景気が悪化し、不良資産が一段と増えた。97年に三洋証券の倒産によってコール市場における貸し倒れが発生して、信用が一挙に収縮し、証券・銀行の連鎖倒産が発生した。

公的資金の早期投入が必要だった。もし、国会で銀行経営者や大蔵省・歴代銀行局長の責任が厳しく追及され、彼等が深く反省したならば、世論は公的資金の投入を認め、「平成大不況」を免れたかもしれない。

現在のアメリカでも、議会は世論を恐れて責任を放棄し、また政府は過去の銀行・証券政策の失敗を認めず、対策がすべて後手に回り、金融危機が一段と深っている。

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