静岡新聞論壇

1月5日

景気後退覚悟して計画を

米住宅バブル崩壊の影響

今年の景気は期待が持てない。それはアメリカで住宅バブルが崩壊したからだ。すでに、中古住宅の価格が低下し、バブル経済時に多額なローンで住宅を買った人は、その住宅を売却しても借金を返済できない状態だ。

それはサブプライム・ローンを借りた低所得層だけではなく、プライムローンを借りている中産階級にも拡がってきた。彼等は、返済のために、消費を切り詰めている。

アメリカの銀行とその系列化にあるノンバンクは、サブプライム・ローンを証券化した金融商品を大量に購入した。ところが、サブプライムローンが不良債権化するととともに、これらの金融商品の価格が暴落し、銀行には巨額な赤字が発生した。銀行は資本不足に陥り、貸し渋りが強まり、住宅ローンや消費者ローンの条件が厳しくなった。住宅建築数は最近2年間で半分に減った。

アメリカ人は贅沢な生活を送り、借金漬けの暮らしをしている。この過剰消費によって、輸入が増え、経常収支の赤字は拡大し、ドルが世界中ばらまかれた。ドルは外国から投資や借金によって回収され、アメリカの対外純債務額は800兆円に達した。

ところが、現在は、対個人ローンが不良債権化して、銀行が経営危機に陥り、また、対外債務が激増して、国の信用が失われ、ドルが弱くなった。そういう状況では、世界の機関投資家はアメリカに投資しない。

ドルはアメリカに環流し難くなり、世界の金融市場に溢れているから、もっとドル安になりそうだ。そうなると、輸入物価が上昇し、アメリカ経済は不況下のインフレという困難な事態に追い込まれる可能性が大きい。

今や世界経済は一体化しており、アメリカ経済が深刻な事態に落ち込むと、自分の国の経済が打撃を被るので、助け船を出す国が現れる。アラブ産油国や中国はドル安になると、手持ちの膨大なドル資産が目減し、巨額な損失が発生する。それを避けるためにドル資産を売却すれば、ドルは暴落し、被害が大きくなる。

そこでアブダビ、ドバイ、中国、シンガポールなど金融機関は、アメリカの銀行の資本を補強するため、巨額な資金を投入し、信用の低下とドルの暴落を防ごうとしている。また中国は対米輸出が大きく、アメリカ経済が破綻すると、甚大な打撃を受けるから、資金投入を続けている。

賃上げが消費を刺激

こうして、アメリカ経済は一息付けそうだが、今年は、消費と住宅投資の減少による景気後退を免れない。その影響がアジアに拡がり、日本の輸出が伸び悩み、景気が後退する可能性が大きい。

日本経済が、それを避けるためには、まず企業が思い切った賃上げを実施して、消費を刺激すべきだろう。昨年には、多くの企業が未曾有の高収益をあげ、配当を増やし、重役賞与を引き上げた。しかし、大幅な賃上げを見送り、また契約社員、パート、下請け企業の利用は目立って減らなかった。

一流企業の工場事故が頻発し、契約社員や下請け企業の職員が犠牲が減らない。これは賃金コストを強引に引き下げたので、従業員の勤労意欲が失われた影響といえよう。賃金を引き上げるべき時期に来ている。

福田内閣はばらまき気味の予算案をつくった。現在のように、先行き不安の時には、財政再建の手綱を緩めて、不況を防ぐべきだろう。もし、不況になれば、税収が減り、財政赤字が拡大する。この意味で、この予算案は悪くない。

私達は、今年は慎重に構え、景気後退を覚悟して生活計画を建てるのが、賢明な生き方といえよう。

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