静岡新聞論壇

4月5日

チベット仏教徒の怒り

世界に広がる中国資本

漢民族のエネルギーが世界を覆っている。中国と国境が接しているシベリアの町では、中国製製品を売る中国人の店が軒を連ね、そこでロシア人店員が働いている。ベトナム、ラオス、ミヤンマー等の中国と国境を接する集落では、華僑の商店が中国製品を売って繁盛し、幹線道路沿いの都市では、中国資本のホテルやショッピングセンターが増え、また現地の低賃金を利用した繊維工場が多くなった。

こうした現象は、中国の周辺国だけではない。サッカーのワールド・カップが開かれる南アでは、10万人を越す中国人が移住して中国製品を販売し、中国人が経営するショッピングセンターは、中国人経営の警備保障会社の黒人社員によって、黒人の強盗から守られている。

温州人の活動の場がヨーロッパに拡がっている。温州市(福建省)は山に挟まれた貧しい海岸都市であり、働き者の温州商人は内外各地にでかけ、成長商品を見付け、技能者を高額で迎えて、遂に眼鏡、靴 衣類、ライター、電子部品等の巨大な産地になった。最近、主要な輸主先だった中・東欧の幾つかの都市で温州人が現地生産を始めた。読売新聞の報道によると、高級ブランド品の産地であるイタリアのプラド市では、温州人がすでに人口の30%を占め、3000の縫製工場を経営し、イタリア・ブランドの製品を生産しているという。

一昨年に、青海チベット鉄道が開通し、北京からは毎日、上海、広東、重慶等主要都市からは隔日に運行され、大きな荷物を担いだ浙江省や福建省の商人と観光客で溢れている。チベットは日本の4倍近い面積に300万人近い人が住み、ラサには40万人がいる。彼等はチベット仏教に帰依し、1000キロを超える距離の山道を全身投地しつつ、2年ぐらいかけてラサに巡礼する人もいる。

テレビでみると、全身投地して這うように進む巡礼者の脇をトラックが砂埃をあげて走っていく。その道路は、中国政府が西部開発のために建設したものだ。巡礼者が苦行の末にラサのポカラ宮殿に辿り着き、改めて全身投地の祈りを捧げると、周りには派手な衣類を付け、化粧をし、宝石を付けた中国人や西洋人が祈りもせずにぶらつき、宮殿の写真を撮っている。

格差拡大と文化の破壊

中国人は、鉄道開通後、続々とラサに乗り込み、土産店やレストランを開き、豪華なホテルを建設して、豊かな生活を営んでいる。これに対して、チベット人は低賃金でホテルやレストランに雇われ、異質な文化の礼儀作法を強要され、また中国人がチベットの伝統品を探し、高値で売却している。西部開発政策はチベット人の雇用を増し、成功したように見えたが、実は中国人との格差拡大とチベット文化の破壊をもたらした。

東南アジアにおける華僑の歴史をふり返ると、経済進出のスピードが速く、現地の経済秩序や習慣を破壊し、現地人との貧富の格差が拡大した時、反華僑の暴動が発生した。インドネシアやマレーシア等イスラム教の国では数万人の華僑が虐殺されたことがあった。 砂漠や4000メートルを超える厳しい自然条件の中で生きる人には、厳しい戒律や修行の宗教が必要であり、それが冒されたと感じた時、死を恐れずに立ち上がるらしい。

儒教・道教の教えに支えられ、メンバーが数万人にも達する大家族の団結力が中国文化の特色と言えるが、海外移住者が膨張し続けると、この大家族文化と現地文化との摩擦が激しくなるだろう。今回のチベット暴動は、その走りのように思える。

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