静岡新聞論壇

1月17日

たかりと財政破綻

増える国債、構成にツケ

生活が苦しくなった時、50年前の日本人は貧しさに耐えて黙々と働いた。現在では、私達は、「人間らしく生きる権利がある、政府が救済すべきだ。」と主張する。

こうした政府の役割を重くみる経済学派があり、経済が不況に落ち込み、失業が増えた時には、政府が介入すべきだという。

つまり、1、政府は国債を発行し、財政支出を拡大して国民を救済する。 2、財政支出が増えると、いろいろな産業で雇用が拡大する。 3、その結果、支払賃金が増え、消費が盛り上がり、景気が好転する。

4、国民の所得が上昇する。その時、政府は増税して国債を償還する。 5、拡大した財政支出をカットして、もとの水準に戻す。

こうして、不況を克服し、国債は消え、無駄な支出がなくなるはずだ。ところが、世の中は、経済学の理屈通り動かないものだ。まず国民は増税が大嫌いであり、増税を公約に掲げた政党は、必ず選挙に負ける。増税は不可能である。

つぎに、一旦財政支出を拡大すると、それは一種の既得権益になり、多くの政治家が減額に強く反対する。国民は政府に「たかる」のは当然だ考えるようになった。道路建設費や医療費を始め、財政支出を一旦増やすと、なかなか削れない。

国民が良識を欠き、政治が未熟な国では、国債が増え続け、経済の力が衰えるものだ。日本は遂に「国債大国」になり、国債残高の対GDP費は120%に達し、EU平均の60%を遙かに抜いた。かって日本の一人当たりGDPは世界2位だったが、今や18位に転落し、シンガポールや香港に抜かれそうだ。

国債は、後の世代の税金によって償還される。建設国債によって集めた資金は道路や港湾に使われ、物として残っているから問題は少ない。しかし、後の世代の人は、無駄な道路や豪華なホールが多く、自然が破壊され、また維持補修費の負担が大きいという不満を抱くだろう。 

問題は赤字国債だ。国債残高の過半は赤字国債であり、それは年金、介護費、公務員の給与等に向けられ、結局消費され、何も残っていない。現在の世代が豊かな生活を送り、後の世代がそのツケを支払うのである。国債残高を人口で割ると、一人当たり約540万円の大きさになった。

真の弱者救う制度作りを

これを負担感なく償還するには、経済を成長させなければならない。そのためには、まず子供や孫を立派に教育し、将来、彼等が多様なハイテク産業を続々と生み出す。つぎに、すべての人が技能を生かして80歳頃まで働き続ける。最後に人口を増やす。例えば、優れた能力を備えた外国人を大勢迎え、帰化してもらう。

80歳ぐらいまで働く人は多いだろう。しかし、最近の大学生の学力や日本人の外国人労働者嫌いを考えると、高成長は叶わぬ夢のように思える。では、どうすればよいか。

まず、政府に「たかる」慣習をなくしたい。現在の悪習の下では、既得権者グループは、役人に頭を下げて、財政支援を実現する。役人は、税金をばらまき天下り先を確保する。政治家は「たかり」を支援して、選挙の票を増し、議員の地位を守るのである。困るのは後の世代であるが、小・中学生だったり、よちよち歩きの子供だから、文句を言えない。

平等と自由の理想を掲げた文明国が衰退するのは、国民・政治家・官僚が、平等を実現すると称して、国家に「たかる」ようになった時だ。今後、経済のグローバル化が進むから、貧富の格差が拡大し、貧困に苦しむ人が増えるだろう。

私達は政府を当てにせず自助努力に励む。志ある政治家と役人は、弱者の振りをして「たかる」団体を相手にせずに、貧困層を支援する制度作りに知恵を絞らなければならない。

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